小説:World’s End

遠くからサイレンの音が聞こえる。

朝のバスが止まっていて、徒歩で学校に着いたときにはすっかり遅刻していた。教科書も忘れていたが、チャイムが鳴っても誰も来なくて、授業は始まらなかった。昼ごろ売店で代金を置いてから賞味期限の切れたパンをもらって、ひとりで教室で食べた。放課後になっても誰も来なかった。

またサイレンの音が聞こえる。続いてアナウンスが、世界のおしまいを告げた。

商店街は元旦の早朝みたいに静かで、道路には車が走ってなかった。ぼくは道路のまん中に大の字に寝転んだ。頬に当たるアスファルトが冷たくて気持ちいい。少し気の早いアリが白線の上で硬直しているのが見えた。路地で寝ていた猫も、もしかしたら一足先に活動を終えていたのかもしれない。

図書館の門はカギが掛かってなかった。館内はいつもどおり本ばかりたくさんあって、読もうとする人間はいない。ただひとり、受け付けに係りの女性がいて、退屈そうに書類の整理をしていた。

試しに本を借りてみたら、女性は世界のおしまいなんておかまいなしに、事務的な手続きを終わらせて「二週間後に返却してください」と言った。ぼくは歴史書の欄に行き、分厚い本のしおりの布ひもをちぎり取って、いくつか結びつけて輪をつくった。

ぼくも女性もあやとりが下手くそで、『よくわかる あやとり入門』を片手に必死になってしおりと格闘した。西の空が紅くなったころに、ようやくいびつな最後の型が完成した。ぼくは「やっぱり毛糸がいちばん」と言って、ふたりで笑った。

風がなくなり、草木のざわめきがやんだ。羽ばたきもしない鳥がたくさん落ちてきて、図書館の窓を割った。川のせせらぎ、虫のささやき、すべて静寂につつまれた。ただ、遠くからサイレンの音が聞こえてくる。世界が静かに、その役目を終えようとしている。

電気の止まった暗い図書館で、ぼくは女性と短いキスをした。

――World’s End ――

世界のおしまいで、ぼくは恋をしていた。

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