歌集:そっと木の実を置き去る妖怪

シュール・妖怪の短歌

シャンプーをしている背後ナニモノかいるような気がそっと振りむく

おでこにチュ ついでにそっと「さよなら」を骨伝導で告げる恋人

芳一は行方不明のままメモの書かれた左手だけが見つかる

生きたまま腸にとどかず亡くなったビフィズス菌を祀る神社や

ぬくい手の人はこころが冷たいと言われ赤子は赤鬼となる

殴られた老婆のような警笛を鳴らす車に煽られている

夢子さん夢太郎くんひさしぶりおや不条理ちゃんまた背が伸びた

噂ではバブル景気の原因は座敷童子の異常発生

遅刻魔のろくろっ首は矛盾していると思うよ(某妖怪・談)

部屋中の明かりを消して天井の隅の暗がりじっと見ている

白を踏み横断歩道をわたる子がよろめき黒に吸いこまれた夏

電話鳴り受話器に触れるとすぐ切れる何度も何度も鳴っては切れる

野良犬に餌を与える老人がサイレンに向かい吠える夕暮れ

「お好みの顔に合わせます」とペンを手渡すのっぺらぼうの告白

雨雲の下でのっぺらぼうは待つ 泣きかたはみなそれぞれちがう

ベッピンの妻は三日ですぐ飽きる うなづきやまぬのっぺらぼうだ

説教をたれるおやじの禿頭にそっと木の実を置き去る妖怪

シャンプーをしている背後ナニモノかいるような気がそっと振りむ あ

日常のただごと短歌

よしぎゅうの店員に今年はじめての「おめでとうございます」を言われる

オーバーヘッドキックをきめる 雪どけの横断歩道でこける俺様

お昼ごろ祖母は「タモリがはじまる」と言う はじまった一義アワー

カリスマ的アダルトビデオ男優のへたな演技にホッとする晩

インドにも人はうじゃうじゃいるわけでたとえばパイズリとかはあるのか

運動後肋骨に肺が喰いこんで痛い痛いと泣いたアル中

ちくちくと「オトナ」になったぼくを刺す押入れ奥の卒業文集

セーターを着たらロボットみたいとかミサイル出すなと言われています

青によし赤と通行人によし 指さし確認する奈良タクシー

壁掛けのデジタル時計がゾロ目だと「やった!」と思うが声には出さない

キッチンで母がマネする平井堅 お面のように使われるカニ

伸びをする片腕壁にぶつかってスーパーマンの俺は二度寝に

納豆の三個パックでけんかする ふたり暮しのはじまりである

急いでるふうの小走りは車に「むちゃな横断してごめんね」を表現

焼肉を食べている人 しゃべる人 他人の皿に肉をおく人

焼肉を食べている肉 しゃべる肉 他肉の皿に肉をおく肉

にこにこと音がしそうな笑顔。ほんとにきこえた。あ、やっぱうそです

「短歌がね面白いんだよ」「黙っててわたしもなんか思いつきそう」

カフェオレで汚れたギター泣き寝入りコーヒールンバを歌ってみたり

ふと気づくこれがノロケと言うものか 恥の爆弾 短歌で鎮火

太りすぎの風俗嬢が「巨乳でしょ?」それなら全身おっぱいと呼べ

母からのメールに顔文字を見つけたら返信しませんしません僕です

「ま、いいね」そう言うときの本心は「まいね」と言っているのだけれど

唇をとがらせちょっと舌を出す「大きい方がしたい」の合図

結婚という名の宝探しには地図が足りない 二十五になる

そのほかの短歌

つらがまえ身のこなしその全身が鈴木という名にふさわしい人

ユンピョウの服は何かをするたびに「ボバッ!ボババッ!」と風を斬る音

珍妙なダンスじゃないよ僕が「ボバッ!」って言ったらユンピョウの真似なの

ユンピョウのブーム到来、男子校「ボバッ!ボババッ!」の合唱ひびく

鉄柵をキリンがぺろぺろなめている動物園と昼のピンサロ

お名前は下の名前はそうですかわたしの名前もご存知ですか

蝉はセミ、写真はシャシン、殻はカラ、わたしはワタシ、無名のわたし

ピノッキオの小さい「ツ」を抱く悲しみは個性時代の終わったしるし

抱っこしてくるくる回りながらキスその勢いで投げすてる恋

勉強の成果が出るまでやってみて成果が出たら台無しに、うん

鳴り止まぬ拍手で彼の慢心がさくさくこんがりメンチコロッケ

大空に自由な翼はためかせ 手羽先無料で今夜はから揚げ

虹色の帯を結んだ空手家が玄関先で母と談笑

虹色の帯を結んだ空手家が『はみだしっ子』を読んで号泣

虹色の帯を結んだ空手家が殺し文句で熊を悩殺

「アントニオ猪木のまねのスマイルとチーズバーガー」「五百円です」

ミキティと呼ばれはにかむその顔がとても嫌いだ 東幹久

山本という名の共通点だけであだ名がリンダになった山本

仲間からリンダと呼ばれる山本は52歳の男性である

泣きながら歩く女よどこへ行く泣きながら歩く女よどこへ

開かないとわかっているドア開かないとわかっちゃいるけど押したり引いたり

人さまの鼻歌盗む歌泥棒 次はあなたの街に来るかも

ギュギューンと音が鳴るたびギュギューンという表情をするギタリスト

二千万あれば誰でもプリンスの顔にできると形成外科が

ガンマイク持参の彼がカラオケで「酒と泪と男と女」を

今日からはプリングルスの空き箱がきみのまくらでぼくの片腕

いつもより3オクターブ高い声 哀しい川を翔んでいるから

アニメ業界の短歌

このキャラは女だからと言う前に人としてどうかは考えないの?

肛門に出てきたうんこをキープして尻尾とうそぶくネコミミ娘

日曜日の顔したきみがいるせいで自宅作業ははかどらないまま

ギャルもののキャラ表見たらグラビアのポーズ真似ててウンザリだよもう

2コマだろう いや3コマだ 2コマかも 脳は動きはストロボ5コマだ

辞めてった人が残したライターがそろそろ点かなくなる西東京

ばっちりとスーツ着込んできた君を殴りたいやら抱きしめたいやら

でもぼくはアニメーターだし金ないし浮気しないけどできないけれど

豚丼並きょうは卵はやめておく消しゴムのカスが似合う服です

一般の婦女子と思った先輩のやおい本好き発覚 腐女子か

鉛筆を動かす速度が遅すぎる 君、帰り支度だけはマッハだね

誓います 貧乏だけには負けません金を欲しがる気持ちに負けても

会社一まじめな彼がワリカンの飲み会だけは神出鬼没だ

靴ひもがほどけて素足になってみるひゃっこい地面もなかなかいいよ

開かないとわかっているドア開かないとわかっちゃいるけど押したり引いたり

あの女チラチラこっちを見ているぜ俺にホの字だ おまえ馬鹿だろ

愛あれば俺は誰でもかまわない顔は加護似で おまえ馬鹿だろ

店頭であややのビデオが買えなくてAmazon教に入信する兄

ばたんきゅーのきゅーはからだが縮む音ってそんなに力説されましてもきゅー

キモいとかおたくだなんて言われるがそれでもおれは好きさアニメが

太陽の昇る方角まちがえた子よくちびるにバカボンの歌を

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Evernoteに保存Evernoteに保存