中井久夫『徴候・記憶・外傷』を読む

中井久夫『徴候・記憶・外傷』を読みました。PTSDや精神医学のあれこれを書いた本です。

やっぱり中井久夫さんはおもしろい。南方熊楠と『ドグラ・マグラ』の正木敬之を足して2で割ったような人だと思います。軽くチャカポコしてる感じがたまりません。手に入る著作はすべて読むことに決定。

三歳までの記憶は、断片的で、視覚的で、非言語的な「幼児型記憶」。成人になってからの記憶は、歴史があって、文脈的で、言語的で、変化する「成人型記憶」。成人になるにつれて成人型記憶が前に出てきて、幼児型記憶が消えていくんじゃないかという仮説が立てられます。

私は、二歳半から三歳半のクリティカルな時期において幼児型記憶が消去されるという仮説を立てる。この消去が必要なのは、文脈依存的な成人文法性、三者関係、自己史連続感覚の成立のために邪魔になり、両立しないからであると考える。

これは脳神経系の情報処理システムの発達をべつのことばで説明したような感じだと思いました。

ざっくり脳神経系の発達を書きます。まず子宮で細胞分裂によってニューロンがつくられ、樹上突起などがかたちになり、無差別にあちこちと回路をむすぶ。生まれたあとの環境刺激で必要のないニューロンは消え、無差別だった回路が整理されて、学習や加齢とともに変化・発達していく。そのうち視神経と視覚野は生まれて数ヶ月で成熟するが、聴覚野は三歳半ごろにようやく成熟する。

中井さんは自分の記憶や、臨床の経験、小説・随筆・詩などから、おおむね直感をたよりに仮説を立てています。学問的な基礎体力があるとはいえ、なんという直観力でしょうか。科学がまだ届いてない領域までも見通しているんじゃないか……なんて思ってしまいますね。

この本では「幼児型記憶」と「外傷性記憶」が似ていることから、PTSDと治療の話になだれこんでいきます。似たテーマをくり返し書いているので理解もしやすいですし、ほかの著作と同じようにいちいちたとえ話や具体例が興味深かった。

もっとちゃんとした書評が書きたいところですが、いまは時間がないので、とり急ぎ。この本はジャケットもかっこいいです(下に)。おすすめ。

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カテゴリー: 書籍

アニメスタイルで読みたい記事

アニメスタイルの次回のイベントは、「雑誌アニメスタイル3号企画会議」だ!そうです。わたしはたぶんイベントに参加できないので、ここでアニメスタイルで読みたい記事をみっつ挙げます。

1.小黒祐一郎さんのテレコム作画の話

漫画批評家の夏目房之介さんもそうですが、やっぱり自分が熱くなって楽しんだ時代の作品を語ったほうが、記事はがぜんおもしろくなります。だから小黒さんにも熱く楽しんだ時代の作品の話、たとえばテレコム作画の話を語ってもらいたいです。個々のアニメーターの話から、特定のカットの話をこってりと。

思いつくままに、だらだら語るようなものが読みたいですね。小黒さんがお気に入りらしい、関弘美さんの『この人に話を聞きたい』みたいな感じで。要点をてぎわよくまとめるライター文体じゃ楽しさ半減です。評論っぽいものもNG。

2.小川びいさんの声優論

あえて「論」にしましたが、これも、よもやま話が読みたいところです。声は文章にするのがむずかしいですけど、そこをなんとか。声優キャスティングにおける声のトータルバランスについても、きちんと言語化してまとめるのはむずかしそうですが、そこをなんとか。個人的によかったと思う作品のタイトルを挙げるとか、ゲストを呼んで語りあってほしい。

3.絵コンテ講座

雑誌「アニメスタイル」は良くも悪くも作画マニアを量産しました。次なるステージは演出マニアを量産することでしょう。インタビューじゃなくて、突っこんだ技術論がいい。

たとえば大地丙太郎さんがブログでやっている絵コンテ講座を、もっとたくさんの演出家でやってみたらおもしろいんじゃないかと。短い脚本をひとつ用意して、何人かの演出家にコンテを切ってもらい、読みくらべてみたり。

絵コンテ講座をやって、演出の技術論が大ざっぱにでも広がり、楽しみ方がわかれば、『時をかける少女 絵コンテ 細田守』や『デジモンアドベンチャー絵コンテ・細田守―ANIMESTYLE ARCHIVE』の売りあげはもっとよくなるんじゃないかと思います。読まれ方の質も変わるでしょう。たぶん、絵コンテに慣れていない一般の人で、最初から最後まで読みとおした人は少ないはず。これじゃあまりにもったいない。

以上、アニメスタイルで読みたい記事みっつでした。まとめます。

  1. 小黒祐一郎さんのテレコム作画の話
  2. 小川びいさんの声優論
  3. 絵コンテ講座

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カテゴリー: アニメ

アニメはもっとおもしろくなる

アニメがつまらないと思ったら、どんどんブログに書こう。
アニメがおもしろいと思ったら、どんどんブログに書こう。

誰にでもわかることばを使って、ちゃんとした文章で書こう。
できたらその考えをまとめよう。
同じ議論をくり返さないために。
あとから来た人たちが踏み台にできるように。

その考えが知的で、しかも活発に行われていたら、きっと注目される。
みんなの考えは、アニメをつくる人にも、つくらせる人にも影響をあたえる。

アニメを変えるのは視聴者だ。つくる人じゃない。

夢見がちな人だと思われるかもしれないね。
でも、ぼくはひとりじゃないんだ。
いつかあなたも仲間になってほしいな。
そうすれば世界はひとつに……じゃなかった。
アニメはもっとおもしろくなる。

カテゴリー: アニメ

アニメにおける「縦の構図」と「垣間見」の精神を批判的に検討する

人さまの記事をネタに語るという、ブログっぽいことをやってみます。

tukinohaの絶対ブログ領域
アニメにおける「縦の構図」と「垣間見」の精神

要約すると、映像作品の「縦の構図」は奥行きを強調するので、見られる対象の前に遮蔽物などがあったりする。すると観客が「かいま見る/のぞき見る」ようになり、見られる対象の価値を高めたり、真実味をあたえる効果がある。……という内容だと読み取りました。

わたしが誤読している可能性は大いにありますが、おもしろい記事だと思ったので、批判的に検討してみます。

この記事のなかでも縦の構図とは言えない例を挙げてしまっていますが、ほかにも監視カメラっぽいフレーミングでも似たような効果を望めるでしょう。あるいは「かいま見るAさんの姿を正面から捉えた構図」→「Aさんの見た目で、BさんCさんがならんでいる横の構図」とカットをつないだとしたら、横の構図でもたいして変わらなくなります。

なぜ縦の構図にこだわるのか理由がわかりませんし、映像を語るうえでカットの連続性を無視するのはまずいでしょう。

そもそもフレーミングに意味はあるのか? という問題も考える必要があります。『フィルム・アート―映画芸術入門』から引用してみます。

わたしたちはときとして,アングルや距離などのフレーミングの性質に,絶対的な意味を与えたくなることがある。(略)映画技法の性質にそのような一対一対応の厳格な意味があるなら,芸術としての映画の分析はずっと簡単であろうが,それによって,個々の映画作品の独自性や豊かさはおおかた失われてしまうだろう。実際,フレーミングには,絶対的な意味や一般的な意味はない。
(P253)

フレーミングの機能はその作品のコンテクストによって決まります。つまり「かいま見る/のぞき見る」構図の機能(どういう意味をもつか/もたせたいか)は、作品のコンテクストによっていろいろ変わってしまうわけです。[補足:その作品のフレーミング機能がほかの作品に当てはまらない場合もある。もっと言えば、その作品のほかの場面に当てはまらない場合だってある。]

ただし『鶴の恩返し』のような物語類型でいうところの「見るなのタブー」は世界中にあるので、「かいま見る/のぞき見る」ことに対象の価値を高めたり、真実味を感じたりするような文化的背景は広く共通しているかもしれません。したがって、以下のようにまとめることはできそうです。

  1. 世界中に「見るなのタブー」の物語類型がある(文化的背景)
  2. われわれは「かいま見る」ことで対象の価値や真実味を感じるらしい(仮説)
  3. この心理は映像表現でも利用することができるだろう(仮説)
  4. 『CLANNAD』『ef – a tale of memories.』『true tears』の該当する部分(具体例)
  5. 「かいま見る」フレーミングでは「縦の構図」などがある(結論)

ここでは映像をつくる側の方法論を語っているので、意味の解釈は見る人にゆだねられ多義的であるという見る側の方法論は省きます。

この「縦の構図」は何も映画やアニメといった映像作品に限ったものではなく、日本の芸術全般において用いられてきました。例えば、古い日本庭園において「借景」と呼ばれているものがこれに当たります。

無理やり範囲を広げてまで「縦の構図」にこだわったのは、もしかしたら借景の話につなげたかったからかな? と邪推。

批判的に検討というか、要約してまとめた感じになってますね、はい。

カテゴリー: アニメ, 映像・TV・DVD, 映画

中井久夫『治療文化論―精神医学的再構築の試み』を読む

中井久夫『治療文化論―精神医学的再構築の試み』を読みました。それぞれの文化にあるさまざまな精神病や治療法を横断的に読み解いて精神医学の再構築を考える本です。

精神科医の重鎮にこんなこと言うのもなんですが、「天然キャラのものしりおじさんが楽しい話を取りとめなく語ってくれた」って感じで、とてもおもしろかった。書きことばでありながらしゃべりことばに近い文体といい、あっちこっちに飛びまくる話題といい、たとえ話や具体例がいちいち興味深いこともあって、あっという間に読み終えてしまいました。

要約してしまうとこの本のおもしろさは半減してしまうんですけど、いちおう大筋をざっとまとめてみます。まず精神病をわけることから。

  1. 普遍症候群
  2. 文化依存症候群
  3. 個人症候群

1.普遍症候群は、ヨーロッパ的な文化依存症候群という感じ。乱暴にいえば、ヨーロッパは精神医学を体系づけたおごりがあったせいで、自分たちの病いは「普遍症候群」とするいっぽう、アフリカや東南アジアなどの病いには「文化依存症候群」とレッテルをはった。悪名高いフォン・ドマールスの原理などといっしょに語られます。

2.文化依存症候群は、名前のとおり文化に依存している病い。日本でいうと「キツネツキ」とか、アイヌの「イム」など。聖書のレビ記(20:13)やローマ人への手紙(1:26-1:27)などのように、同性愛がタブー視されるヨーロッパ文化では、自分がホモセクシュアルだと気づいたときの衝撃すなわち「同性愛ショック」などがそれにあたるそうです。

3.個人症候群は、これも名前のとおり個人的な病い。この本では天理教の中山ミキを例に挙げています。熊木徹夫『精神科医になる』では、うつ病の原因じゃないかと考えられているセロトニン不足を解消するためにSSRIという抗うつ薬を処方しても、効き目に個人差があるという話が紹介されていました。おそらくその人が見たもの聞いたもの食べたもの、個人的な人生のすべてが病いの原因なんでしょう。

以上のみっつに分類しますが、これらはそれぞれに関係しあってもいる。

三つの「症候群」は、それぞれ一つの(アスペクト)(見方)であるともいえる。同一症例を、どの相から見てもある程度は記述できるというわけだ。しかし、また、いずれによっても完全には記述できない。

この部分は、アニメの話になりますが、高畑勲の「アニメ・映画・アニメーション」を書いたわたしには大いに共感できる内容でした。

さて、こんなふうに、いろいろな精神病があるように、いろいろな治療法だってあります。

精神医学のなかだけでも、力動精神医学・正統的精神医学・科学的精神医学などがある。ほかの職業的な集団では、シャーマンや断酒会や修道院や催眠術などもある。また、狩猟者や登山家などのひとりで精神衛生をはかる技術、伝統的な中国にある大家族が病いを支えるシステム、マッサージや鍼灸や料理や占いなどのカウンセリングなどなど、広く世界を見渡せば、実にさまざまな治療法、そして「治療文化」が息づいている。

標準化・近代化・統一化されたSMOP精神医学と、哲学的・主観的に患者個人を深く掘り下げる力動精神医学は、相いれないところはあるけども、それぞれで治療のための方法(学律(ディシプリン))を突きつめ、また職業的なものもそうでないものもいっしょになって精神医学を再構築して、多様性のある「治療文化」コスモロジーを築きあげれば、病いをもつ人間の多様性をとらえることができるかもしれない。

とまあ、以上が大ざっぱな要約です。まさにタイトルの『治療文化論―精神医学的再構築の試み』どおりの内容と言えましょう。

上にも書きましたが、あっちこっちに飛びまくるおもしろい(すぐに映画化できそうな!)話がぜんぜん拾えてないのが残念なので、また別の日にあらためてこの本の感想を書くことにします。

(つづく)

もくじ

一 文化精神医学をめぐる考察―文化精神医学と文化精神医学者
二 「文化依存症候群」の問題
三 ヨーロッパの「文化依存症候群」―一つの逆説
四 「文化依存症候群」についての再考察
五 「個人症候群」という概念に向かって
1 西欧世界における「非」普遍症候群の欠如性
2 科学的「創造の病」と宗教的「創造の病」
3 宗教的「創造の病」としての中山ミキの変貌
4 現代における一例
5 「創造の病」の再検討
(1)「創造の病」(エランベルジェ) (2)卑近な一例
六 「個人症候群」概念導入の試み
1 熟知性のなかで起こる治療
2 「治療集団」的側面を持つ小集団
(1)敗戦直後の年少者集団 (2)集団の永続性・営為・構造 (3)困難への対処 (4)歴史家の職業病としてのうつ病 (5)ヒューマン・ファクター (6)少し違った他の例
七 三症候群の文化精神医学に向かって
1 深い治療と個人症候群性
2 三症候群の構造的基底
(1)病いの深さ・古さ・患者の発達と関連 (2)治療者側の問題と開眼の仕方
八 治療文化論
1 定義の試み
2 病者と非病者
3 ヤップの破断回復論再考
九 治療文化の諸形態
1 非職業的治療文化
(1)一人治療文化 (2)家庭治療文化 (3)小コミュニティ治療文化
2 職業的治療文化
(1)システムとしてのシャーマニズム (2)「内治療」集団としてのアルコ―リック・アノニマス (3)修道院とキリスト教治療 (4)メスメリズム・催眠術・フロイト
3 動力精神医学の起源を求めて
一〇 精神科治療文化の複数性
1 エランベルジェの逆理
(1)SMOPと精神科医の有徴性 (2)精神科医はSMOPに収斂しうるか (3)分裂病の不思議さ
2 精神科医と土着治療師
(1)インドネシア体験 (2)「文化依存症候群」の積極的意味
一一 患者と治療者
1 階級と周縁性
2 患者・中心指向・縁辺
3 民間治療とヒュブリス
一二 週末と新しい地平
参考文献
あとがき

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カテゴリー: 書籍

内田亮子『人類はどのように進化したか』 目次

内田亮子『人類はどのように進化したか』は、200ページちょっとの短い本ですが、内容は多岐にわたっています。詳しい目次があると便利だと思ったので書き起こしました。とてもおもしろい本なので、興味のある方はぜひ。

第一章 進化のしくみと適応
1 進化とはなにか
進化とはなにか/ダーウィニズム・総合説の誕生/自然選択――進化のメカニズム1/遺伝的浮動――進化のメカニズム2/進化の証拠とモード/ダーウィニズムの革命/進化の限界と不完全さ
2 遺伝子の働き
遺伝子とはなにか/遺伝子とタンパク構造
3 生命の多様性と歴史
分類と系統/分岐年代を再構築する
4 遺伝子と環境の相互作用
至近因と究極因――氏か育ちか/動物と環境の相互作用/自然主義的誤謬
コラム1 ダーウィンの苦悩
第二章 性差と協力行動の進化
1 性の進化はなぜ起こったか
二つの性/性の機能
2 性差はなぜ存在するのか
性選択/性選択がおきる理由/雌は何を選んでいる?/配偶システム/雄の競争と戦略/子殺しの進化的説明/親子・雌雄の葛藤/娘か息子か/父性の不確実性
3 協力と利他行動
集団選択(群淘汰)/遺伝子からの視点/血縁認知のメカニズム/霊長類・人間の血縁選択/他人同士の協力行動――互恵的利他行動/社会行動のゲーム理論的研究/社会的ジレンマと懲罰/社会的感情と評判/互恵性の戦略と相手選び/選択のユニット
コラム2 聖母マリアとイチジク――単為生殖
第三章 人間の身体と心
1 脳神経系のしくみ
ニューロン/脳神経系の階層/脳の発達/脳のモジュール性
2 心を生みだす化学
攻撃と恐怖/快感とうつ/絆の化学―雌(母)・雄(父)・子供
3 性分化と性差
性分化の多様性/ホルモンの働き/女性ホルモンと男性ホルモン/一次性徴と二次性徴/男女の脳はどう違うのか/脳の性分化/臨床例からみる性の多様性/性ホルモンと認知機能の変化/身体の生と心の性/あいまいな性が創る文化
コラム3 エストロゲンと女性の健康
第四章 コミュニケーションと生活史
1 非言語コミュニケーション
嗅覚/体性感覚(触覚)/視覚/聴覚
2 言語の起源と生物学的基盤
言語コミュニケーション/言語中枢/言語の生得性と生物学的基盤/言語に関わる遺伝子/言語獲得の Before and After
3 生活史の進化
繁殖戦略と生存のトレードオフ/子供期と思春期の成長スパート/成人~老年期/女性の寿命/現代人の寿命/少子化を考える
コラム4 女性の出産と人生設計
第五章 霊長類と人類の進化
1 類人猿の進化と生態
霊長類の起源と進化/類人猿の祖先たち/歌う類人猿――テナガザル/孤高の森の類人猿――オランウータン/果実好きな類人猿――ゴリラ/権謀術数のコモンチンパンジーと平和主義のボノボ
2 人類の系統と進化
進化の順序と単一種説/ヒト上科の分類/立ち上がった類人猿/アウストラロピテクスグループ/初期のヒト属/ホモ・ハビリス/「現代人系統」の出現と特徴――ホモ・エレガスタ/出アフリカ――ホモ・エレクトゥス/初期の石器文化――オルドワン文化とアシュリアン文化/「狩猟仮説」/ネアンデルタール人の文化
3 現代人の文化
ホモ・サピエンスの起源と移動/後期旧石器文化と「心のビックバン」?/農耕の開始――新石器「革命」?/定住による影響/人間の進化はつづく
4 現生の採集狩猟民
カラハリ砂漠のサン族/コンゴのエフェ族/ベネズエラのヤノマモ族
コラム5 ルイス・リーキーの情熱
第六章 進化からみた文化
1 人種の分類と概念
人間の科学的分類/皮膚の色の生物学的メカニズム/人種問題をどう考えるか
2 文化と生物学
進歩史観と優生学/ボアズとアメリカ文化人類学/文化の定義/社会生物学による人間理解/文化遺伝子ミーム/文化の継承と同調バイアス/文化と遺伝子の共進化
3 現代社会と人間の進化
誇りの化学/子育てと社会的ネットワーク/文明病とダーウィン医学/人間の未来と進化的理解
コラム6 人類史上最も子孫を残した男性

あとがき
参考文献
用語集
事項索引
人名索引

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カテゴリー: サイエンス, 書籍

近況、『人類はどのように進化したか』、『精神科医になる』、『新・分子生物学入門』、『人間行動の心理学』を読む

ばたばたしております。確定申告(六回目)もやらねば!

とりあえず、読んだ本。

内田亮子『人類はどのように進化したか』読了。自然科学からみた人類学の入門書。立てつづけに三回通読するほどおもしろかった。200ページちょっとでこの密度はすごすぎる。第四章「コミュニケーションと生活史」ではいままさに争っている人間の言語能力についてのチョムスキー、ピンカー、ディーコンの説を取り上げていておもしろい。「種(species)はない」の詳しい解説、霊長類の身内びいきをめぐるシンデレラ物語の世界的分布の自然科学的な説明もある。これはちゃんと購入してぐりぐりマーキングしまくる予定、そのうち書評も書きます。

熊木徹夫『精神科医になる』読了。精神科医のあれこれを書いた本。中井久夫の「兆候空間=微分(回路)的認知」をキーに、治療者が患者との対話を連続的に行うことで、患者の「像」をとらえ刻一刻と変化する「物語」をつむぎ、それを治療の根拠にするという、身体科医とはちがったアプローチが語られる。「像」や「物語」のあやうさを自覚しつつ、対話を通した変化をともなう治療を選ぶ立場なので、EBMやDSMにはやや辛い。「個」と「類」の相いれなさを思った。
また、社会的防衛役割と治療的役割、パターナリズムと反パターナリズム、疾患と甘え、など精神科医にはさまざまな葛藤があるという。
症例検討会を「兆候空間=微分(回路)的認知」で捉えなおし、長老のご託宣的な強制力を持ちやすい「入れ子構造」を複数の検討会へ参加することで「円環構造」へと変えるべきではないかと提案する。ここらへん現場の意見が聞いてみたいと思う。
もともと中井久夫のいう「微分回路」および「積分回路」は統合失調症患者の傾向を指す。「微分回路」は、わずかな変化に敏感に反応できるが、それゆえノイズに弱く、また相手の初動にふり回されて記憶が生かせないこと。
この本では「微分(回路)的認知」として、治療者が予防的対策を練るための先取り的回路――患者の「像」をとらえ「物語」をつむぐこと――として意味づけられている。中井久夫自身がこれと同じように考えていたかどうかがわからない。『分裂病と人類』を読もうと思う。

丸山工作『新・分子生物学入門』読了。遺伝子のはたらきをめぐるおもしろい話を集めた本。クローン、男女、ウィルス、狂牛病や病、遺伝子工学と倫理的な問題、人類の進化、バイオテクノロジーなど。専門的だけど、ざっくばらんな感じで、ひととおり基礎的なことを楽しく復習。精子のなかにちいさい人がいる「小人ホムンクルス」の絵がかわいい。

多鹿秀継/竹内謙彰/池上知子/齋藤眞『人間行動の心理学』読了。学習と動機づけ、知覚、記憶、思考と言語、適応、パーソナリティ、対人関係、集団行動、認知とパーソナリティの発達など。つまらなくはないが、ちょっと情報が古いうえに、わたしは脳科学、自然科学、進化心理学の方をおもしろく感じてしまうので、読みとおすのがつらかった。ふわっとした説明で「これで終わり?」と。

カテゴリー: サイエンス, 書籍, 雑記

柴田鉄治/外岡秀俊『新聞記者 疋田桂一郎とその仕事』を読む

柴田鉄治/外岡秀俊『新聞記者 疋田桂一郎とその仕事』を読みました。戦後を代表する伝説の記者、疋田桂一郎の書いた選りすぐりの記事44編をおさめ、新聞およびジャーナリズムを問い直す内容です。おもしろかった。

疋田桂一郎さんは、

  • 戦後の朝日新聞の文体をつくった
  • 管理職にしては惜しいと考えられた大記者
  • 朝日きっての名記者・名文家

と言われる人です。わたしが読んだなかでは、外岡秀俊『情報のさばき方』、辰濃和男『文章の書き方』、本多勝一『日本語の作文技術』などで、まるで呪文のようにヒキタヒキタと唱えられています。

あんまりほめられすぎなので、どんな記事を書いたのか興味があったのですが、この本を読んでようやく納得。ついでに、速報性、時事性、情報量といった新聞の枠からつねにはみ出そうとしていたのが疋田桂一郎さんだったのだと思いました。

登山者の集団遭難のルポで山男たちの思い上がりを指摘する『何を語るか? 東大生らの遭難』。伊勢湾台風で名古屋市の都市計画の甘さと経済格差のコントラストを浮かび上がらせる『“黒い津波”の跡を歩いて』。罪と罰の冒頭、ラスコールニコフの七百三十歩をじっさいに歩いてみる『革命までの七百三十歩――世界名作の旅・ロシア』。新聞のタブーを真正面から正確なデータを埋めつくして描く『自衛隊』。などなど。

疋田桂一郎さんの記事に共通するのは、権力・横暴さ・通念への抵抗ですね。山田太一、高畑勲、ロバート・アルドリッチと似たものを感じます。

また、色・匂い・味・音・肌ざわりなど、五感を刺激する文章が多くておどろきます。『革命までの七百三十歩――世界名作の旅・ロシア』によく表れているのですが、たとえば階段の「乾いた音」という文章を書くためにじっさいに音を聴きに行く、あるいは自分で歩いてみるような執念深さが、紋切り型の表現を遠ざけています。

もしかしたらブログを書くのに役立つかも、なんて思ったんですが、甘かった。ちゃんとした取材があっての名文なので、文体だけを表面的にまねてもお寒いだけでしょう。

有名な『新・人国記―青森県』の冒頭:

 雪の道を角巻きの影がふたつ。
「どサ」「ゆサ」
 出会いがしらに暗号のような短い会話だ。それで用は足り、女たちは急ぐ。
 みちのくの方言は、ひとつは冬の厳しさに由来するという。心も表情もくちびるまでこわばって「あららどちらまで」が「どサ」「ちょっとお湯へ」が「ゆサ」。ぺらぺら、くちばしだけを操る漫才みたいなのは、何よりも苦手だ。

「角巻き」は四角の毛布でできた肩掛け、女性用の防寒具です。このように青森県の風景から入って、北国のふさいだ心が爆発するネブタ祭の話題にうつり、最後には棟方志功のアジア的混沌と孤独を描きます。短い文章で情景を写し、効率よく青森県をスケッチしてく手さばきにうっとり。

プロクルステスの寝台問題にぶつかった『ある事件記事の間違い』は、下手な推理小説よりも読みごたえがありました。

銀行の支店長が、心身障害のある娘を餓死させた容疑で逮捕される。警察の調書と新聞は、こう書く:

イ.ベビーベッドに十日間も閉じ込め
ロ.水も食事もあたえず
ハ.腹を空かせて皮が破れるほどチューチュー指を吸っても心を鬼にして放置し、

――餓死させた。残酷な娘殺しをイメージさせる記述だが、疋田さんがあらためて公判記録を読み返すと、これがまちがいだったとわかる。

イ.娘は先天性精神薄弱児でベビーベッドは日常の住居空間だった
ロ.拒食症だった
ハ.指しゃぶりは癖だった

事件が捏造された理由はシステム的なものだった。

警察は、事実を自分たちの望むシナリオに無理やり押しこめる乱暴な調書をとり、点数かせぎのため事件が大きく扱われるように新聞記者に告げる。記者は、限られた情報量ときびしいスケジュールのなかデスクを通るように事件のつじつまを合わせ、ベタ記事→三段記事→トップ記事へと上りつめるように、また他社より注目を集めるように、スキャンダラスに書く。

このような警察と記者のなれあいで「残虐な娘殺し」に仕立てあげられた男性は、電車に飛びこんで自殺した。

 どういうわけか、こと事件報道に関するかぎり、警察からの取材だけで書いた一方的な記事がまかり通っている。通念になっていて、記者もデスクも疑わない。(略)警察につかまるのは悪人にきまっている。悪人については何を書いても構わない、とでもいうのだろうか。
 このような事件報道が、人を何人殺してきたか、と思う。

そして、現実のできごとと記事のあいだのズレを最小限にちぢめるために事件報道のあり方を問い、具体的な提言をします。興味のある方は、本書でお読みください。

「事件は記者室でも起きているんだ!」という現実をまざまざと見せつけられます。

しかし、複雑な現実を、要約も編集も演出もしないでまるごと飲みこみつつ、安易に決めつけないで保留するような知的なタフさを新聞記者はおろか読者にも要求するのは、ちょっと酷すぎるかもしれません。

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カテゴリー: 書籍

チャールズ・ダーウィン『種の起原』をいいかげんに読む

最近、読んでいる本にちょくちょくダーウィンが登場して、指先でヒゲをのばしたりちぢめたりして遊んでるんです。いいかげん目ざわりなので『種の起原』を買ってみました。BOOKOFFですが。

上巻の目次:
第1章 飼育栽培のもとでの変異
第2章 自然のもとでの変異
第3章 生存闘争
第4章 自然選択
第5章 変異の法則
第6章 学説の難点
第7章 本能
第8章 雑種
付録 種の起原にかんする意見の進歩の歴史的概要

下巻の目次:
第9章 地質学的記録の不完全について
第10章 生物の地質学的遷移について
第11章 地理的分布
第12章 地理的分布(続)
第13章 生物の相互類縁。形態学。発生学。痕跡器官。
第14章 要約と結論
付録 自然選択説にむけられた種々の異論

まずわかることはオルグ目的で書いてることですね。科学にこんな言い方はどうかと思うんですが、創造論の支配に抵抗するための手練手管がなかなかすごい。ちょいとストーリー仕立てになっています。

第1章「飼育栽培のもとでの変異」は、足の速い馬をかけあわせてもっと足の速い馬を生むみたいな人為的な変異をあつかう。第2章「自然のもとでの変異」で、人為的に行わなくても、自然がゆっくり変異をさせていくのだ、と語る。変異を生む理由は、第3章「生存闘争」とか第4章「自然選択」がある。それらからわかることに変異には第5章「変異の法則」があるらしいんだけど、うまく説明できない第6章「学説の難点」もたくさん残る……みたいな。

進化論は革命的ではあるものの、付録の「種の起原にかんする意見の進歩の歴史的概要」を読むと、いままでにいろいろな人が同じようなことを言っていたようです。それほどとっぴな、おかしな考え方ではないことも、くり返し強調されます。なかなか創造論を打ち破るのは大変だったようです。

ダーウィンは、英文のくせに断定的な書き方をぜんぜんしないし、文章が回りくどくてうだうだ長いし、小難しい用語を使いすぎです。ヴィクトリア朝時代とはいえ、サイゾーみたいな雑誌でライター修行をしてから書けばよかったのに、と思いました(冗談ですよ、念のため)。

***

『種の起原』を読んで頭がやられたのか、変な寝言を言っていたそうです。同居人がネットをしていたとき、横で寝ていたはずのわたしが、いきなりはっきりした口調で、

「健闘の後は種が残りやすい」

と言ったとのこと。まったくおぼえてません。たぶん、生存に有利な条件を獲得した(健闘の後?)種は残りやすい、という意味だと思います。

ほかにも、どうのこうのと寝言を言ったようですが、きっとダーウィンが憑依したせいなので、文句があるならダーウィンに直接言ってほしいです。

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インディ・ジョーンズ4 『The Kingdom of the Crystal Skull』の予告

http://www.youtube.com/watch?v=lPTJ4v6KPrg

インディ・ジョーンズの新作『The Kingdom of the Crystal Skull』の予告です。CGばりばりですけど、けっきょくやってることがいつもどおりのおちゃめな演出でまずはひと安心。楽しみです。

これの邦題はどうなるんでしょう?

『クリスタル・スカルの王国』は無難ですが、スカルがいまいち日本語になじみません。スカイと誤読されそうです。かといって『クリスタル髑髏』だと語呂が悪いし、『水晶髑髏』ではちょっとイカツイ。そもそも髑髏を読めない人が多いでしょう。でも『クリスタルしゃれこうべ』ではタイトルとして長すぎる。思い切って『ピカピカほねほね』か? いや、これじゃアンパンマンです。

うーん、どうするんでしょう。

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