北京旅行記 – 2 買いもののことなど

買いものとぼったくり

 デパートや商店以外の市場は、価格表示のないオープンプライスが多い。店員は客の様子を見て値段をつり上げにくる。こちらが日本人だとわかると、10倍くらいは余裕でふっかけてくるので、自然と値切る術も身につく。

 中国の通貨は元で、1元はだいたい15円。買いものは元を15倍すれば相当する日本円がわかる単純な計算だが、元の下に「角」、さらに下には「分」という単位もあるので、電卓を持っていたほうが便利。言葉の通じない店員と値切り合戦をするにも役立つ。

 衣類などに高値をつけて「ハンドメイドだ」と主張する店員がいるが、ハンドメイドはすなわち雑な手作業でこしらえたものと解釈するほうが正しい。他店の商品を土地をころがすように2~3倍の値で売る店もよく見かけた。

 ちなみに私が靴を買ったとき、店員にほとんど英語が通じなくて難儀したが、「discount OK?」には即答で「No!」と返ってきた。商魂だけはたくましい。



ずらりと並ぶ土産のつぼ



でも実は裏でつくっている。

パチもの天国

 日本やアメリカのキャラクター商品をパクったものが多い。鳥山明が描いてないと断言できる、すばらしくペンタッチの荒い『ドラゴンボール』や、クリリンに毛髪が生えたようなカンフー少年の漫画などが、いたるところで見つかる。

 北京ではDVDよりもVCDの流通が盛んだった。よくドラマVCDのジャケットに、まったく無関係の日本女優や俳優の写真が使われていた。私が確認したものでも深津恵理、松雪泰子、イザム、福山雅治、優香があった。

 優香に関してはすべて水着写真だったことが、計らずも私の「優香ぶさいく説」を裏づける結果となった。と勝手に思っている。



ぶさいくトトロ



じゃばらキティー

 デパートが林立する西単にある中国一大きいらしい北京図書大厦(書店)に行った。なぜか平日の昼間から大混雑で、雑誌や小説などの娯楽本が少なく、学術書、教育書ばかりが売られていた。

 漫画の棚には『ドラえもん』が大長編をふくめ全巻そろっていて、夏目房之介さんの著作で「中国人はドラえもんを自国の作品だと思っている」と読んだことを思い出した。中国の子供たちはときどき背景に登場する日本の街並みを見てどう思っているんだろう。

 そういえばドラえもんの大長編に『パラレル西遊記』がある。中国キッズが勘違いするのも無理ないのかもしれない。



嫌悪感しか感じないテレタビーズ、緑色のやつは目が片方ない。



確実にパチものの『キャプテン翼』、『逮捕しちゃうぞ』が『逮捕令』になってる。



北京図書大厦のなか。最上階には喫茶店もある。



ナイキショップのバスケットコート、若者のなかなかすごいジャンプ。

値切る快感とおのぼりさん

 値切り慣れてくると、帰るそぶりを見せるなどのテクニックも覚える。そのうち値切ることが快感になってくる。調子に乗って、はじめから無理な値切りかたをして店員を困らせるのも楽しい。

 和平門から南に数キロ行くと、琉璃廠文化街があり、清代の建築様式を復元した細い通りに、書画骨董の店が軒を並べている。そこで古い錠前をちまちま値切っていたら、流暢な英語を使う若い女性の店員にこう言われた。

「わたしは、あなたがたが日本の学生だということを知っている。あなたがたにとってこれは大した金額ではないでしょうが、わたしたちにとっては生活に関わる大金なのです」

 私は核心を突かれたようでショックだった。物価のちがいにばかり目が行って、そこで生活する人たちのことなどまったく考えていなかったのである。

 北京では500mlのコーラが30円で買えるし、食事も屋台なら200円ほど。この価格を日本円にスライドさせると確かに安いが、日本の物価感覚をそのままに旅を続けたところで、北京の姿はかすんでいくだけだ。

 旅行の意義は人それぞれであっていいと思うが、異文化に接して自らの見識を深めることに変わりないだろう。私はそれをすっぽかしていたのである。

音楽CDのこと

 北京のCD屋でまず探したのはプリンスだった。プリンスは日本のファンの間では「殿下」という愛称で呼ばれている。中国ではどんな漢字名なのか興味しんしんだった。が、ついに一枚も見つからなかった。人気がないんだろうか。

 その代わりほかの洋楽CDはそれなりにそろっていた。名前が面白かったものをメモしておいたので列挙する。

猫王 - エルヴィス・プレスリー
辣娘 - スパイス・ガールズ
九寸釘 - ナイン・インチ・ネイルズ
涅槃楽隊 - ニルヴァーナ
皇后楽隊 - クイーン

 だいたい英語の意味を漢字にあてたものが多いが、プレスリーがなぜ猫王なのかは謎である。とりあえず愛称があるのは、親しまれている証拠だろう。

 店の品揃えはどこも似通っていて、上に書いたもののほかに、ピンクフロイド、エリック・クラプトン、マリリン・マンソンをよく見たくらいだった。北京人はあまり洋楽を聴かないのかもしれない。一部のマニアックなファンはどうやって探して購入しているのか、ぜひ知りたいところである(とくにプリンスは)。

 邦楽CDもあった。反町隆史のドラマGTOのサントラは「麻辣教師」で、例の主題歌は「ボイヌソ」になっていた。試しに買ったら、ドラマから反町の決めぜりふ抜き出して入れてあるなど、なかなか凝ったつくりだったが、そのかわり音飛びが激しくて聴いていられない。

 ところで、このサントラには「くらさくらちく」という曲がある。こんな名前の曲は日本製のCDには入っているのだろうか。GTOはどうでもいいが、本当の曲名を確かめてみたい気がする。

 そのほかにも、宇多田ヒカル「Can You Keep A Secret?」が「A級秘密」に、椎名林檎「ギブス」が「石膏」になったりしていた。ちなみに矢井田瞳のCDはあったが、椎名林檎はテープでしか売ってなかった。

 邦楽CDのなかに、日本の流行歌だけをチョイスしたものが目立ってたくさんあり、北京人の日本に対するあこがれのようなものを感じてしまった。



こんな感じか

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北京旅行記 – 1 はじめに・ホテルのことなど

はじめに

 安値で長期間の旅行を捜して、3月6日~12日までの北京ツアーに決めた。このツアーは2日目の北京ダックの夕食をのぞいてほかは自由。行ったのは私と連れのふたりで、ともに英語には明るいが北京語はまるでダメ。確実に知ってる北京語は「再見」と「謝謝」、そして「牛肉麺」くらいである。

 北京へは上海の空港を経由した。上海での乗換えは、入国審査カードを書いたり、搭乗口までの道順を調べる必要があって、基本的な英会話を知っていて助かった。空港の係員でも日本語はまるっきり通じないんである。

 中国の空港は、いずれも見つけにくいところに喫煙室があった。中国国際航空の機内も禁煙である。どこの国でも喫煙者はつらいサービスが待っている。


到着とホテルのことなど

 北京に着いたのは現地時間で22時ごろ。日本と中国の時差は1時間で、日本が正午なら中国は11時になる。空港から出るととても寒く、ガイドによると今月は三度ほど雪が降ったらしい。ついでに北京観光は10月ごろがピークで、この時期はオススメでないことも聞く。なんでも率直にしゃべるガイドである。

 ホテルに向かう途中、道路には広告の看板が少なかったが、イルミネーションは豪華だった。ホテルやレストランから、寺や神社まで、夜になるとうるさいほど輝きだす。

 泊まったホテルは『地球の歩き方 中国』にも載ってる三つ星の新北緯飯店。最近になって改装されたらしく『地球の歩き方 北京』には旧名の天橋賓館になっている。ここには日本風のカラオケ・バーや中華レストランがあり、地下で土産を買ったりマッサージを受けることもできる。

 

 ホテルの部屋はきれいだったが、細かいところを見ると雑なつくりがわかる。冷蔵庫のコーラは、スーパーで買えば2元のところが13元(195円)。中国はこのように、どこでもサービス料が高く、そのためチップは必要ないらしい。

 ところが地下で垢すりマッサージを受けたところ、ボーイからチップを要求された。勝手がわからないので1元札を出したら、ボーイは「ちがう」と首を振り、財布をいじっていると10元札を指差すので、しぶしぶあげた。歴史の深い中国には、このような例外もまた存在するんである。


 部屋の浴室にあるシャワーは、水の本数が数えられるほどの勢いしかなかった。一日の疲れを癒す入浴が取り上げられると精神的につらい。五つ星ホテルなら滝のようなシャワーだろうと何度も想像したものだ。しかし、こんなことでへこたれているようでは中国旅行など四千年早い、と自分に言いきかせる。

 ここのホテルは日本語の通じるスタッフが多く、おかげで両替やチェックイン・アウトもすんなりだった。ところが一歩外に出ると、観光地のくせに日本語はおろか英語すらままならない環境にはおどろいた。

 ホテル地下で足つぼマッサージを受けたとき、女性スタッフに「ちんちんマッサージあるよ?」と訊かれたが、北京人の基本的な語学力は、この「ちんちん(日本語)」と「マッサージ(英語)」に集約されていると言っていいだろう。

 結局、そのちんちんマッサージは丁重にお断りしたが。

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続ちょっこっと旅行記

 北京観光でまずおどろいたのは、おかしな日本語の名前がついている商品だった。

 北京では日本から輸入した商品は良質で人気がある。だから中国産のものでも日本産に見せかけて売っているのだ。めちゃくちゃな日本語の品名でも、読める北京人は少ないので(大半は日本人でも読めないが)、だまされて買うひとは多いんだろう。

 そんな商品の中で、いちばん気になったのはビデオの『東京テブストーリー』だった。当時は批判的に観ていたドラマだが、いまは長尾力ソ干と赤名ン力のテブストーリーが永遠であることを心から願いたい。

 日記のネタに困って書いているが、いずれ旅行記でも同じネタをくり返すことになると思う。

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ちょこっと北京旅行記

 旅行中に、故宮博物院のすぐ北にある景山公園に行った。景山のいただきにある万春亭からは、72万平方メートルの故宮全景を一望できる。北京市内を四方から見下ろせる眺めは圧巻だった。

 景山から下りる途中の休憩所にバイオリンとギターの流しがいた。ぼくと連れが覗いていると、バイオリン奏者が「日本人ですか?」と訊くので、そうだと答えると、『北国の春』を弾いてくれた。まわりにいた人々が演奏にあわせて中国語で歌いだす。

 演奏自体は優れたものじゃなかったが、そのサービス精神とみんなの合唱であったかムードを楽しんだ。残念ながらぼくらは『北国の春』の歌詞を知らず、合唱に参加することはできなかった。もしぼくがコロッケや千昌夫だったら、その気持ちに応えられるのに……と思うとくやしかった。

 たぶんコロッケや千昌夫になりたいなんて思うのは最初で最後だろう。

 そんな北京の一日。

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ガンマ線を我慢せん

 腹痛が連日続くので病院に行った。中国帰りということもあるので、もし何かあったら大変だ。

 ところが採血やレントゲン撮影の結果、炎症反応もなく、盲腸の可能性も薄いらしい。ついには原因不明で「カゼだよ、カゼ」というありがたい診断を受ける。土曜日だからか、半ドンで切り上げるために看護婦の手際は見事だった。

 30分足らずの診察だったが、たくさん出た処方薬のせいか、診療費は5000円もかかってしまい、無理を言って後輩を呼び出して金を借してもらった(ありがとう、金はすぐ返す)。医者が金持ちである理由が少し判った気がする。

 相変わらず腹は痛い。松坂大輔と某女子アナの交際を知ったときは野球選手にあこがれたが、いまは医者になりたいと思っている。

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北京へ

 たとえばぼくが旅行中に事故で死んだ場合、このサイトはどうなるのか? ファイルが消されない限り残りつづけるが、もう更新されないので、誰も見に来ない。まるで墓石のような負のにおいのするサイト。

 まあ、旅行の前日にこんなことを言うのもアレですけど。人間万事塞翁が馬なんだし、七転八倒しつつ臥薪嘗胆の心意気で百聞は一見にしかずを体で確かめてきます。とりあえずの目標は、馬謖を斬ってきます。泣きながら!

 最後のは蛇足。それでは、再見。

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続・悪名

 友人宅で手作りの朝食兼昼食をごちそうになった。メニューはモヤシ、肉、卵の炒めものと白米に納豆。とてもおいしくいただいた。

 家に帰ってから炊飯器と冷蔵庫を見たら、たくさんの白米と納豆が残っていた。北京旅行の前に食べてしまいたかったので、夕食はもちろん大盛りの白米と納豆を二パックをいただいた。

 もし納豆を食べることが男らしい行為だとしたら、今日のぼくはそうとうの猛者だ。ただ、実際はそうでないので、日に三パックも納豆を食べてなぜか自身満々のへんな男がいるばかりだ。

 ちょっとネバつく猛者がいるばかりだ。

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ん?

 と、賢明な読者は気づいたかもしれないが、元旦から今日の日記までタイトルが五十音順になっている。確認するマメなひとがいるかもしれないので、すべて列挙する。

あ行「あけましておめでとうございます」「イージー・ゴーイング」「歌う男の晴れ姿」「えれえれえれ…(某漫画家っぽく表現)」「幼い悪夢」か行「カルパス」「均衡と金庫」「くもり空、煙草の煙、ピアノの音」「健康な名前」「コンプレックス」さ行「さらなる不安」「仕様も無い話」「すてきな片思い」「せちがらいアリ」「損得勘定」た行「太鼓持」「頂点いまだ見えず」「月夜の密談(inside of 平川)」「ディレッタンティズム」「虎の口サバイバル」な行「なにかを期待させる音」「ニコチン・ドライバー」「ぬるくなったコーヒーを(以下省略)」「猫の手も借りたい」「野薔薇」は行「鼻からの物体X」「ひとり咳をする」「フルヘッヘンド」「平滑な突起物、自然体の狂態」「坊主の方図」ま行「前相撲のいさみ足」「ミッドナイト・ブレーン」「武者修行」「めちゃキャワイすぎ~っ!」「没義道でなく」や行「厄難の対処法」「幽明の境」「ヨドバシ・マジック」ら行「楽楽楽」「良心とレッテル」「流刑」「霊魂はかり」「ロンパリ」わ行「ワールズ・エンド」「乎古止点」「ん?」

 本来なら「ゐ、ゑ」も含めるべきだが、語彙が少ないのであきらめた。没義道(もぎどう)、乎古止点(をことてん)は、一般的な言葉ではないので避けるべきだったと思う。ちなみに乎古止点は、漢文を訓読するための符号のことで、その日の内容とタイトルはほとんど関係ない。

 五十音順というルールを決めたことで、タイトルをつけるのに苦労したり、内容がタイトルに縛られたり、逆にタイトルから内容の着想を得たり、いろいろあった。わりと楽しんでやっていた。

 これらの日記を読み返すときに、「内容が先かタイトルが先か」を想像するのも、ひとつの楽しみかたかもしれない。たぶん読み返すのはぼくだけだろうが。明日からタイトルを「いろはにほへと」ではじめようかと思ったが、くり返しになるのでやめておく。

 五十音タイトル最後の「ん?」は、ご愛嬌ということで。

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乎古止点

 気になってしかたない語尾がある。

 ある演劇で、老人役が「じゃ」という語尾を使っていた。そのほかにも、女性役の語尾に「わ、よ、の」が多く、キザな男性が「なのさ」と言ったりした。気づいたときには、物語より語尾の面白さに熱中していた。

 たぶん役の個性を出そうとして、そういう語尾を使ったんだと思う。でもふつう、そんなしゃべり方をするひとは少ない。役ごとに個性を出すなら、語尾ではなく、たとえば予備校の講師が職業病で「落ちる、すべる」と言えなかったり、精神科医がことあるごとに他人を分析したりするほうが、より効果的な気がする。

 また、中国人役の語尾の「アル」もよく見かける。北京語に「アル」という言葉はよく出てくるが、日本語を使うときにもそう言うのだろうか。中国人であることを明確にするためかもしれないが、やっぱり変だ。

 こういう妙な語尾は意外と漫画や小説などに多いので、それを読み慣れているひとに、この気持ちを判ってもらえるか心配だ。たとえば関西人が、英語で

「Is your earning enough でっか?」 (儲けていますか?)
「so so でんねん」 (ぼちぼちです)

 と会話するくらいおかしい。と言えば、少しは伝わるだろうか。

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World’s End

 遠くからサイレンの音が聞こえる。

 朝のバスが止まっていて、徒歩で学校に着いたときにはすっかり遅刻していた。教科書も忘れていたが、チャイムが鳴っても誰も来なくて、授業は始まらなかった。昼ごろ売店で代金を置いてから賞味期限の切れたパンをもらって、ひとりで教室で食べた。放課後になっても誰も来なかった。

 またサイレンの音が聞こえる。続いてアナウンスが、世界のおしまいを告げた。

 商店街は元旦の早朝みたいに静かで、道路には車が走ってなかった。ぼくは道路のまん中に大の字に寝転んだ。頬に当たるアスファルトが冷たくて気持ちいい。少し気の早いアリが白線の上で硬直しているのが見えた。路地で寝ていた猫も、もしかしたら一足先に活動を終えていたのかもしれない。

 図書館の門はカギが掛かってなかった。館内はいつもどおり本ばかりたくさんあって、読もうとする人間はいない。ただひとり、受け付けに係りの女性がいて、退屈そうに書類の整理をしていた。

 試しに本を借りてみたら、女性は世界のおしまいなんておかまいなしに、事務的な手続きを終わらせて「二週間後に返却してください」と言った。ぼくは歴史書の欄に行き、分厚い本のしおりの布ひもをちぎり取って、いくつか結びつけて輪をつくった。

 ぼくも女性もあやとりが下手くそで、『よくわかる あやとり入門』を片手に必死になってしおりと格闘した。西の空が紅くなったころに、ようやくいびつな最後の型が完成した。ぼくは「やっぱり毛糸がいちばん」と言って、ふたりで笑った。

 風がなくなり、草木のざわめきがやんだ。羽ばたきもしない鳥がたくさん落ちてきて、図書館の窓を割った。川のせせらぎ、虫のささやき、すべて静寂につつまれた。ただ、遠くからサイレンの音が聞こえてくる。世界が静かに、その役目を終えようとしている。

 電気の止まった暗い図書館で、ぼくは女性と短いキスをした。

 ――World’s End ――

 世界のおしまいで、ぼくは恋をしていた。

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