丹野顕『江戸の色ごと仕置帳』を読みました。不倫、レイプ、売春、心中などの「色ごと」犯罪を江戸時代の奉行がどんなふうに裁いたか、裁判記録から見ていこうという本です。おもしろかった。
裁判記録から浮かび上がってくるのは封建制や家父長制などの政治・思想にゆれる人々のいとなみでした。とにかく女性のあつかわれ方があんまりでおどろきます。フェミニストの方は「男尊女卑の政治がいかにひどかったか」の実例集として読むのも一興でしょう。
密通はいまふうに言えば不倫ですが、現代よりも意味が広くて、結婚するつもりの若い男女が親に隠れて愛し合うこともふくまれます。そして密通のほとんどは、死刑、追放刑、磔(はりつけ)、獄門とへヴィーな刑に処される。のんきに「不倫は文化」なんて言ってられません。
美人で評判だった白子屋のおくまは、世間ではふつう持参金を持たせて嫁入りさせるところを逆に持参金つきの婿入り話があった。しかし婿養子になった又四郎は実直でおもしろみに欠ける人物だった。おくまはかねてから恋仲だった忠八と不倫をつづけ、白子屋の人たちも又四郎を邪魔者あつかいした。
おくまの方から離婚を申し入れると持参金をそっくり返さなければならない。そこで白子屋の人たちは又四郎の膳に毒を盛ったり、下女との心中をよそおって殺そうとした。からくも逃げのびた又四郎は南町奉行大岡忠相に訴え出る。白子屋の人たちや忠八は刑に処され、おくまは町中引廻しの上、死罪となった。
ところが大岡裁きとは別に『恋娘昔八丈』で、おくまは悲劇のヒロインとして人気者になる。
白子屋おくまは彼女の密通自体も庶民の間では美化された。殺されかけた実直者の夫には同情は集まらず、「毒婦」とよばれながらも、好きな男へ献身して処刑されたおくまが憧憬された。こうした背景には、愛し合った者同士がなかなか結婚できない江戸時代の結婚事情が厳然としてあったからである。
レイプでは「幼女姦」をのぞいて多くの場合が軽罪だったらしいです。同じように男尊女卑が理由のひとつではありますが、「レイプで女がいい目にあわされた」なんて意味をふくませた川柳(=世論)が残ってもいる。裁判記録に残っているのは泣き寝入りできなかったケースばかり。さすがに読みながら、うげげ、となりました。
ほかには、私娼の発生から吉原や夜鷹の歴史、心中ブームが起こって幕府は「心中」とは言わず「相対死」と呼ぶようにお触れを出したり、僧侶を悩ませた「女犯」と極刑、などなどが書いてあります。でも実は、おもしろいのはDV(ドメスティック・バイオレンス)について書いた最終章です。
江戸時代は、男尊女卑が支配する封建的な倫理観と法律にしたがっているため、DVのトラブルは日常的によく起っていた。がしかし、それが日常風景だからこそ、公的な裁判記録にはほとんど書かれていない(!)。
つまり、ここまで読んできた裁判記録にもそのような記録に残されない「事情」や「風景」や「空気」があったということです。最後のどんでん返し。あらためて最初から読み返したくなる最終章だと思いました。






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