佐伯チズ『頼るな化粧品!』を読みました。キャリア40年にわたる達人が「常識」をくつがえす美容理論を語るという内容です。わたしは化粧をしたことがないで、わからないところを同居人にたずねつつ読みました。
第一章で化粧品メーカーの裏事情とそれにふり回される消費者をあばいてから、つづく第二章で美容の「常識」はまちがいだらけと指摘して、それに代わる新しい美容理論を第三章で語り、最後の第四章で美は内面や暮らしに宿るとまとめる。そんな構成です。
読んでいるうちに「フランス式」と「アメリカ式」の美容のちがいが浮かび上がってきました。
フランス式は、西洋の美だけでなくアジアン・ビューティーをふくむ「美の相対化」をもとに、医学をよりどころにした長期的な効果をもとめ、自分に合った化粧を楽しむ。アメリカ式は、ロールモデルへのあこがれとイメージをもとに、マーケティングをよりどころにした短期的な効果をもとめ、ニーズに近づくための化粧を楽しむ。
大ざっぱな分け方ですが、こんな感じでしょうか。別のことばで言えば「個性化」と「均質化」あるいは「ケア」と「演出」。
著者はフランス化粧品メーカーのゲランに入社して、マダム・リゴプロに美容のいろはを学んだらしく、どちらかと言えばフランス式。日本人の肌質や美意識に合ったメイクを提案し、ケアの大切さを説いていきます。はっきりした主張を断定的に語り、美容に思想・ライフスタイルをからめることが特徴的だと思いました。「信者」になるか、ならないかの二者択一を迫るタイプかもしれません。
愛されメイクなどのキャッチコピー、化粧品の流行、お店の美容部員におどらされて、自分に合わない化粧品を使っていませんか? という問いかけは普遍的な力がありますね。高価なものが必ずしも良いものではない、高価だから効くはずという心理をついた商売だ、という指摘も同じ。こちらはオーディオの世界とそっくりです。
一貫して語られるのは「肌はデリケート」ということ。クレンジングと石鹸の「ダブル洗顔」は、肌がもともと持っている機能を削ぎ落とす。ごしごしこすったり、パッティングはNG。顔剃りは角質を奪うだけでなく肌が自己防衛で硬くなる。などなど。
おもしろかったのは「木を隠すなら森」理論ですね。シミやシワを隠そうとして、明るめの白っぽいファンデーションを使ったり、コンシーラーを使うのはむしろ逆効果。あくまでブラウン・ベース。オークル系やピンク系のアクセントを加えるていどで、シミやシワは同じ濃い色で隠すのが正解と語ります。つまり「木を隠すなら森」。単純明快で冷静な指南は『五輪書』のごとし。
洋服と同じように化粧にも「衣替え」があるという話も興味深かった。毎日まいにち、自分に似合う得意なメイクをする人が多いそうです。外にいる日、室内の蛍光灯の下にいる日、体温の上がる夏、体温の下がる冬で、明るい色と落ち着いた色を使いわけるそうです。メイクの前に、まずその日のシミュレーションを。化粧をしないわたしでも「なるほど!」とうなりました。
著者は美容と健康のためにミネラルウォーターを飲み、カルシウムを摂取するそうです。わたしも毎日2リットルの水と1リットルの牛乳を飲みます。美容をまるで気にしないつや消し人生ですけど、これが美容法なんだとわかると、ちょっとうれしい。あと、坊主頭は自分でバリカンを使って刈るので「顔剃り」もしばらくやってませんが……。「ダブル洗顔」どころかクレンジングを使ったことすらありませんが……。
最終章の「美は内面や暮らしに宿る」という結論は、安野モヨコ『美人画報』や『美輪明宏のおしゃれ大図鑑』と同じでした。いい感じの落としどころはほかに選択肢がないんでしょうね。
身なりに頓着しない恋人と田舎で近所づきあいをせず自給自足の生活をすれば一般的な美の価値観は無になる、という遁世系の落としどころはいかがでしょうか。あるいは、異性の欲望にふり回されないためにも美の価値観や文化を変えなくてはならない、民衆よ立ち上がれ、シュプレヒコール、なんてのは。ぜんぜんちがう本になっちゃいますけども。
















