サイエンス Archive
twitter-log ネズミの生物学
- 2008/08/06
日本のイエネズミ(ドブ・クマ・ハツカ)が巣にエサを貯蔵しなくなったように、奈良の鹿は長期的には独自の進化を遂げると思う。 - 2008/08/09
クマネズミは東南アジア森林地帯が原産で、遣唐使船で日本に入ったと言われる。でも登呂遺跡の弥生家屋の柱に「ネズミ返し」があったので、クマネズミのような樹上性適応をもち、登攀力に優れた種がすでにいたんだろうと思う。 - 2008/08/10
北京原人の遺跡からネズミ化石が、ヨーロッパ石器時代の遺跡からはラトゥス化石が見つかった。ネズミが人間への依存(シナントロープ化)を完成したのはインダス文明のころと考えられている。そして現代の都市はネズミのいない場所が「ない」。見えないだけで、駅を中心に放射線状に分布している。 - 2008/08/10
イエネズミの住家性適応はそのまま船舶や航空機の適応にも当てはまり、十字軍の遠征や大航海時代に世界中へ分散した。アメリカ合衆国が建国されるころにはクマネズミは北アメリカでふつうに見られる動物になっていた。げっ歯目が生息しない場所は、コウモリしか飛んで渡れない海洋島くらいだという。 - 2008/08/10
哺乳類4600種のうち、げっ歯目は1/3の1700種を占める。ネズミ科のみで1100種。この種の多さ、グループの多さは、あらゆる環境への適応力の高さを示す。ネズミは砂漠、高地、高緯度、さまざまに分布する。寒冷地では冬眠する種もいるという。 - 2008/08/10
ネズミは21日間隔で出産し、一年で約9364匹に増える、哺乳類一の多産戦略を取る。また無毛で目の開かない幼弱状態で生まれ、わずか三週間で這いまわり固形食を口にし、七週間で性成熟(交尾可能)する。ネズミの個体数(ポピュレーション)は多産と成熟の速さで維持されるのだ。 - 2008/08/10
14世紀ヨーロッパはペストで約500万人が死亡。1994年インドはペストで4793人が入院、51人が死亡。1898年日本はペストで60人が死亡。山本松谷『風俗画報』には明治33年の街の風景として籠に入れたネズミを役場に運ぶ女性が描かれた。ペスト対策として一匹一銭で買い取ったのだ。 - 2008/08/10
殺鼠剤はアリストテレス時代からある。日本ではワルファリン、クマリン、エンドックスが使われるが、市場が小さく厚生労働省の規定が厳しいため強い薬がつくれない。江戸時代は砒素化合物を使った。明治時代は青酸ガスや一酸化炭素を使ったが、人間にも効くため事故が起きたり、自殺に使われたという。 - 2008/08/10
ネズミが伝播する病原体はサルモネラ菌、ボレビア菌、リステリア菌など。赤痢、レプトスピラ症、ワイル病、ダニを仲介してツツガムシ病、ノミを仲介してペストを広げる。人獣共通感染の腎症候性出血熱ハンタウィルス症候群が問題になっている。東京湾・湾岸地域のドブネズミが捕菌するらしい。 - 2008/08/10
ドブネズミは肉食で異種・同種のネズミも食べる。経済発展途上ではドブネズミの天下だが、急な斜面を登れず、殺鼠剤に弱い。クマネズミは急な斜面を登り、泳ぎもうまく、殺鼠剤に耐性を持つため経済発展でビルが乱立するとクマネズミの天下になる。ハツカネズミは食物も少なく、主に農村で繁栄する。 - 2008/08/10
人間社会が営まれるかぎりイエネズミ(ドブネズミ・クマネズミ・ハツカネズミ)は必ず人とともに生きていく。イエネズミの排除は不可能である。いまのところ……。 - 2008/08/10
承太郎「さて狩りに向かうぞ」 仗助「説明が長すぎっすよぉ~」 - 2008/09/20
@kanose 斉藤隆『森のねずみの生態学(2002)』でもディズニーの記録映画が嘘で、レミングの集団自殺説は妥当性がないと書いてありました。レミングは自己犠牲的な行動の進化が考えられず、集団を維持するための自殺はありえない、そもそも泳ぎがうまいから自殺にならない、とありました。 - 2008/09/20
@kanose レミングの中でもモリレミングは、突然変異型の染色体でY染色体の働きが抑えられ性比が偏り、メスが増えてしまうそうです。突然変異型の遺伝子なのに淘汰されない理由は解明されてなく、またレミングの個体数が大きく変動することに関係しているかもしれない、とのことです。 - 2008/09/20
@kanose 水辺でネズミの死骸が発見された報告はしばしばあるようです。レミングと同じように、日本ではノネズミが大発生したあとに長野県の小黒川、神奈川県の芦ノ湖などで大量の死骸が発見されています。つい「集団自殺だ!」と思ってしまう観察者の主観の問題なのかもしれませんね。 - 2008/09/20
さて「食いつく」といえば東南アジアなどに生息するオニネズミだ。オニネズミは穀倉地帯を荒らし、米や野菜を持っていく上に、幼児に噛みついて怪我をさせる。まさに鬼。しかし成体の体重が1キロと大きいので世界中に広まることはなかった。参照:http://tinyurl.com/3gtxyw - 2008/09/20
タイムラインに齧歯目の話題を見つけたら、なんでも食いつくアニメーター。まるで狂犬のよう。
補足:ネズミが主人公の長編アニメ『川の光』を演出するにあたって調べたことの一部である。このような作品づくりの資料は「100調べて、2使う」くらいになるが、浮ついた表現を避けるためには欠かせない作業だと思った。学問的な常識に従ったアニメ表現にしようというのではなく、「どのような嘘をつくか」という方向性を決めることに資料は役に立った。
twitter-log サイエンスなど
- 2008/03/09
アポロ12号:史上初の月面からのカラー放送をする予定が、映写機にトラブルが起こる。地上の何億という人が近代科学の勝利を目の当たりにし、かたずを飲んで見守っているなか、ヒューストンの管制センターは指示を出した--機材を蹴っとばすか、ハンマーで叩いてみろ。 - 2008/04/04
藤子不二雄のSFが「すこしふしぎ」なのは、実はその時代の科学を描けないからではないか。たとえばドラえもんはアシモに会うことができない(科学者はドラえもんを分解したくなるだろう)。 - 2008/05/16
味覚の研究では「うまみ」は共通語らしい。英語でそれに相当する言葉がないため、日本語をそのままローマ字にした”umami”が使われる。 - 2008/05/19
酸性雨に「ありがとう」と語りかける。 - 2008/05/26
遠藤秀紀『遺体科学の挑戦』が面白い。動物の「遺体に知を語らせる」そして「遺体を未来へ引き継ぐ」。比喩的・物理的に遺体を焼き捨てることに徹底して反対する。これは知的な構えとしてもすばらしい。 - 2008/05/22
チーターの遺伝的多様性の少なさは、約1万年前に個体数が急激に減ったことが原因らしい。ある説によればわずか8体にまでなったそうだ。生物学では、個体数が減りすぎると回復できず絶滅の一途をたどるというが、意外にもチーターは、生命のいとなみは、しぶとかった。 - 2008/06/04
そのうち脳の計測器が小さく安くなって、ロリコン写真や絵にぴくりと反応しただけで逮捕される世界になりますよ。 - 2008/06/05
「BSゴリラ夜話」ゲストはもちろん山極寿一。 - 2008/06/07
生態・進化・解剖と動物に関する本を読み漁っているんだけど名著ばかりで驚いた。その理由はどの本も「長期間の観察」をしていることだと思う。短くて10年。長くて数千年(積み重ねの結果)。ブログじゃありえないことだ。 - 2008/06/17
カラス本で興味深かったのは鳥の視覚と色についてだった。カラスは単純な黒ではなく、見る角度や光の加減によって色が変わる玉虫色をしている。カラスの眼球には油膜がはっており、おそらく「カラスはお互いをカラフルな姿で見ている」。 - 2008/06/28
乳牛のホルスタインは世界120ヶ国に10億頭ほど分布しているが、遺伝子的に均一で多様性が少ないらしい。つまり適応性も均一なので気候変動やウィルスなどで一気に絶滅する恐れがあるという。ヴォイニッチの科学書より。メインはスバールバルの種子保存施設の話題で面白かったです。 - 2008/07/04
『えっちなのはいけないと思います、ファインマンさん』 - 2008/07/04
夜の物理学をマスターした。 - 2008/07/08
科学の基準は大きく5つ(1)観察可能であること(2)実験可能であること(3)反復可能であること(4)予測可能であること(5)一般化可能であること。いまのところ認知科学や脳科学などはこの5つにあてはまらず、科学的とは言い難い。しかし未来の科学の可能性はここにある。 - 2008/07/31
バナナ(Cavendish種)が絶滅しそうらしい。ホルスタインと同じく遺伝的多様性がなく菌の拡大に対応できないとのこと。戦後に高級だったBigMike種はすでに絶滅している。1000種のうち、またいずれかが流通するだろうが、バナナは世代ごとに味の好みが変わる食物になりそうだ。 - 2008/08/06
ブライアン・メイが天体物理学の博士号取得のための論文を出版。これがほんとの「プリンス・オブ・ユニバース」やー。http://wiredvision.jp/news/200808/2008080621.html - 2008/08/17
BBCによるとイギリスで生態系を破壊するほどザリガニが大量発生しているらしい。見つけたら捕獲&殺害を呼びかけているとのこと。これは映画になる!恐怖ザリガニ軍団!http://tinyurl.com/5w6fuu - 2008/08/21
利潤追求の新天地が少なくなり、企業が互いを買収しあうこと。アルファブロガーにネタを食いつくされ、面白い記事や画像をリブログでまとめて衆目を集めること。バクテリアが有機物を分解し、分解するものがなくなると最終的には共食いして消滅すること。人や人工物は自然のふるまいをなぞるようだ。 - 2008/09/09
素粒子物理学のブログを読んでから映画のブログを読んだら「原節子」という単語にぐらぐらした。クオリアのたたりじゃ! - 2008/09/09
ネアンデルタールとヒトの先祖の技術は「同レベル」だった http://tinyurl.com/5efxcj 技術・認識力で劣っていたから絶滅したわけではない、という学説。石やツノの加工品は出土するが植物性は残らないわけで、まだまだ新しい発見があるだろうと思う。こういうのは面白い。 - 2008/09/28
F1の最新鋭テクノロジーの轟音を聴きながら、恐竜の鳴き声のことを考えている。 - 2008/10/01
プレーリードッグを飼うとやみつきになる、という話を聞いた。彼女によるとプレーリードッグは野生が残っていて、犬や猫のような主従関係にはならないらしい。あくまで独立した個人(動物)として同居するような感覚だという。そういうペットとの関係、そして愛し方もあるのだと新鮮に感じた。 - 2008/10/10
ノーベル物理学賞の受賞者を見ると、みんな髪型がだらしない。益川敏英さんは正面ではふつうに見えるが、後ろ髪がねぐせで立ってたりする。これはアインシュタイン以来の伝統を受け継いでいるのだと思った。 - 2008/11/27
ドレッド・ヘアを見ると「光合成できそう」と思う。 - 2008/12/03
http://tinyurl.com/6pvbbj これはすごい。亀の祖先の最古記録は、ドイツのプロガノケリスが150年ぶりに更新されて、同じドイツのプリスコケリスだったと記憶しているが、それがさらに更新されて、中国でオドントケリスが発見されたらしい。しかも甲羅がない! - 2009/01/09
大吉(5点)、中吉(4点)、小吉(3点)、末吉(2点)、吉(1点)、凶(-3点)、大凶(-5点)とおみくじに得点をつけて、100回引き、統計的に運勢を割り出す科学者。友達になりたい。 - 2009/06/29
TBSラジオはLife人気にかこつけて、「かがく系トークラジオ Nature」をやってほしい。森山和道さん(@kmoriyama)、北村雄一さん、中西貴之さんなどなどを集めて、ガチのサイエンストーク。面白そう。 - 2009/06/30
氷の状態が悪くエサを取りに行けないとき、ペンギンの親は自らの体重維持のエサを節約して子に与える。ここまでは人間的なドラマである。しかし氷状がさらに悪化した場合は、子を「見殺し」にして親は自らの延命をはかる。長期的にはその方が種の生存に有利だからである。 - 2009/06/30
極地に生きるペンギンの生態は人間的な道徳倫理ではかれず、とても面白い。以上は『ニッポン南極観測隊 人間ドラマ50年』の第6章「ここまでわかったペンギンの生態」より。
twitter-log アポロ8号の宇宙飛行士とジョーク
- 2009/01/03
アポロ8号に搭乗した宇宙飛行士、ボールマン、ラベル、アンダースの三人の若いころといまの写真を交互に見ていると、なぜかジーンとする。 http://tinyurl.com/7eluv9 - 2009/01/03
「アポロ打ち上げのときはオムツをしていた。いまは老人用オムツをしているよ。私たちが注目されるのは、オムツをしているときだけだ」なんてお決まりのジョークが宇宙飛行士にはあるんだと思う。 http://tinyurl.com/8klguh
twitter-log 子育てとシンデレラ
- 2008/03/15
子育てとシンデレラ:霊長類は「身内びいき」する。ニホンザルは毛づくろいの時間が血縁かどうかでちがう。ベルベットモンキーは緊急時に近縁のものから助けに向かう。チンパンジーは血縁でグループになって地位を争う。さて、ヒトはどうか? - 2008/03/15
子育てとシンデレラ:デイリーとウィルソンの研究によれば、実の親と義理の親では、子育てへの投資がだいぶちがう。ここでも「身内びいき」があるのだ。養子縁組が一般的に行われるドミニカでの調査では、義理の親と生活する子供はストレスホルモンのコーチゾルが高いことが報告された。 - 2008/03/15
子育てとシンデレラ:世界中にバージョンちがいの『シンデレラ』が存在するのは、生物学的なヒトの子育て投資、そして血縁かどうかに敏感に反応する感性・身体が、その理由かもしれない。
補足:以上は内田亮子『人類はどのように進化したか』より。
珍しい誤植を見つけた――『カラス狂騒曲―行動と生態の不思議』
今泉忠明『カラス狂騒曲―行動と生態の不思議』を読んでいたら珍しい誤植を見つけた。

こういう派手な誤植はいままでに見たことがなかった。ちょっとうれしいので、とりあえず、
報 告 し て み た 。
この『カラス狂騒曲―行動と生態の不思議』はたくさんの研究書をもとに、カラスの種類、行動、身体、生活、人間との関係を手際よくまとめた一冊。1988年に出版された唐沢孝一さんの名著『カラスはどれほど賢いか』より研究は進んでいて、とても楽しく読んだ。
参考文献にwebページが挙げられていたのでリンクしておく。
内田亮子『人類はどのように進化したか』 目次
内田亮子『人類はどのように進化したか』は、200ページちょっとの短い本ですが、内容は多岐にわたっています。詳しい目次があると便利だと思ったので書き起こしました。とてもおもしろい本なので、興味のある方はぜひ。
- 第一章 進化のしくみと適応
- 1 進化とはなにか
- 進化とはなにか/ダーウィニズム・総合説の誕生/自然選択――進化のメカニズム1/遺伝的浮動――進化のメカニズム2/進化の証拠とモード/ダーウィニズムの革命/進化の限界と不完全さ
- 2 遺伝子の働き
- 遺伝子とはなにか/遺伝子とタンパク構造
- 3 生命の多様性と歴史
- 分類と系統/分岐年代を再構築する
- 4 遺伝子と環境の相互作用
- 至近因と究極因――氏か育ちか/動物と環境の相互作用/自然主義的誤謬
- コラム1 ダーウィンの苦悩
- 第二章 性差と協力行動の進化
- 1 性の進化はなぜ起こったか
- 二つの性/性の機能
- 2 性差はなぜ存在するのか
- 性選択/性選択がおきる理由/雌は何を選んでいる?/配偶システム/雄の競争と戦略/子殺しの進化的説明/親子・雌雄の葛藤/娘か息子か/父性の不確実性
- 3 協力と利他行動
- 集団選択(群淘汰)/遺伝子からの視点/血縁認知のメカニズム/霊長類・人間の血縁選択/他人同士の協力行動――互恵的利他行動/社会行動のゲーム理論的研究/社会的ジレンマと懲罰/社会的感情と評判/互恵性の戦略と相手選び/選択のユニット
- コラム2 聖母マリアとイチジク――単為生殖
- 第三章 人間の身体と心
- 1 脳神経系のしくみ
- ニューロン/脳神経系の階層/脳の発達/脳のモジュール性
- 2 心を生みだす化学
- 攻撃と恐怖/快感とうつ/絆の化学―雌(母)・雄(父)・子供
- 3 性分化と性差
- 性分化の多様性/ホルモンの働き/女性ホルモンと男性ホルモン/一次性徴と二次性徴/男女の脳はどう違うのか/脳の性分化/臨床例からみる性の多様性/性ホルモンと認知機能の変化/身体の生と心の性/あいまいな性が創る文化
- コラム3 エストロゲンと女性の健康
- 第四章 コミュニケーションと生活史
- 1 非言語コミュニケーション
- 嗅覚/体性感覚(触覚)/視覚/聴覚
- 2 言語の起源と生物学的基盤
- 言語コミュニケーション/言語中枢/言語の生得性と生物学的基盤/言語に関わる遺伝子/言語獲得の Before and After
- 3 生活史の進化
- 繁殖戦略と生存のトレードオフ/子供期と思春期の成長スパート/成人~老年期/女性の寿命/現代人の寿命/少子化を考える
- コラム4 女性の出産と人生設計
- 第五章 霊長類と人類の進化
- 1 類人猿の進化と生態
- 霊長類の起源と進化/類人猿の祖先たち/歌う類人猿――テナガザル/孤高の森の類人猿――オランウータン/果実好きな類人猿――ゴリラ/権謀術数のコモンチンパンジーと平和主義のボノボ
- 2 人類の系統と進化
- 進化の順序と単一種説/ヒト上科の分類/立ち上がった類人猿/アウストラロピテクスグループ/初期のヒト属/ホモ・ハビリス/「現代人系統」の出現と特徴――ホモ・エレガスタ/出アフリカ――ホモ・エレクトゥス/初期の石器文化――オルドワン文化とアシュリアン文化/「狩猟仮説」/ネアンデルタール人の文化
- 3 現代人の文化
- ホモ・サピエンスの起源と移動/後期旧石器文化と「心のビックバン」?/農耕の開始――新石器「革命」?/定住による影響/人間の進化はつづく
- 4 現生の採集狩猟民
- カラハリ砂漠のサン族/コンゴのエフェ族/ベネズエラのヤノマモ族
- コラム5 ルイス・リーキーの情熱
- 第六章 進化からみた文化
- 1 人種の分類と概念
- 人間の科学的分類/皮膚の色の生物学的メカニズム/人種問題をどう考えるか
- 2 文化と生物学
- 進歩史観と優生学/ボアズとアメリカ文化人類学/文化の定義/社会生物学による人間理解/文化遺伝子ミーム/文化の継承と同調バイアス/文化と遺伝子の共進化
- 3 現代社会と人間の進化
- 誇りの化学/子育てと社会的ネットワーク/文明病とダーウィン医学/人間の未来と進化的理解
- コラム6 人類史上最も子孫を残した男性
あとがき
参考文献
用語集
事項索引
人名索引
近況、『人類はどのように進化したか』、『精神科医になる』、『新・分子生物学入門』、『人間行動の心理学』を読む
ばたばたしております。確定申告(六回目)もやらねば!
とりあえず、読んだ本。
内田亮子『人類はどのように進化したか』読了。自然科学からみた人類学の入門書。立てつづけに三回通読するほどおもしろかった。200ページちょっとでこの密度はすごすぎる。第四章「コミュニケーションと生活史」ではいままさに争っている人間の言語能力についてのチョムスキー、ピンカー、ディーコンの説を取り上げていておもしろい。「種(species)はない」の詳しい解説、霊長類の身内びいきをめぐるシンデレラ物語の世界的分布の自然科学的な説明もある。これはちゃんと購入してぐりぐりマーキングしまくる予定、そのうち書評も書きます。
熊木徹夫『精神科医になる』読了。精神科医のあれこれを書いた本。中井久夫の「兆候空間=微分(回路)的認知」をキーに、治療者が患者との対話を連続的に行うことで、患者の「像」をとらえ刻一刻と変化する「物語」をつむぎ、それを治療の根拠にするという、身体科医とはちがったアプローチが語られる。「像」や「物語」のあやうさを自覚しつつ、対話を通した変化をともなう治療を選ぶ立場なので、EBMやDSMにはやや辛い。「個」と「類」の相いれなさを思った。
また、社会的防衛役割と治療的役割、パターナリズムと反パターナリズム、疾患と甘え、など精神科医にはさまざまな葛藤があるという。
症例検討会を「兆候空間=微分(回路)的認知」で捉えなおし、長老のご託宣的な強制力を持ちやすい「入れ子構造」を複数の検討会へ参加することで「円環構造」へと変えるべきではないかと提案する。ここらへん現場の意見が聞いてみたいと思う。
もともと中井久夫のいう「微分回路」および「積分回路」は統合失調症患者の傾向を指す。「微分回路」は、わずかな変化に敏感に反応できるが、それゆえノイズに弱く、また相手の初動にふり回されて記憶が生かせないこと。
この本では「微分(回路)的認知」として、治療者が予防的対策を練るための先取り的回路――患者の「像」をとらえ「物語」をつむぐこと――として意味づけられている。中井久夫自身がこれと同じように考えていたかどうかがわからない。『分裂病と人類』を読もうと思う。
丸山工作『新・分子生物学入門』読了。遺伝子のはたらきをめぐるおもしろい話を集めた本。クローン、男女、ウィルス、狂牛病や病、遺伝子工学と倫理的な問題、人類の進化、バイオテクノロジーなど。専門的だけど、ざっくばらんな感じで、ひととおり基礎的なことを楽しく復習。精子のなかにちいさい人がいる「小人ホムンクルス」の絵がかわいい。
多鹿秀継/竹内謙彰/池上知子/齋藤眞『人間行動の心理学』読了。学習と動機づけ、知覚、記憶、思考と言語、適応、パーソナリティ、対人関係、集団行動、認知とパーソナリティの発達など。つまらなくはないが、ちょっと情報が古いうえに、わたしは脳科学、自然科学、進化心理学の方をおもしろく感じてしまうので、読みとおすのがつらかった。ふわっとした説明で「これで終わり?」と。
チャールズ・ダーウィン『種の起原』をいいかげんに読む
最近、読んでいる本にちょくちょくダーウィンが登場して、指先でヒゲをのばしたりちぢめたりして遊んでるんです。いいかげん目ざわりなので『種の起原』を買ってみました。BOOKOFFですが。
上巻の目次:
第1章 飼育栽培のもとでの変異
第2章 自然のもとでの変異
第3章 生存闘争
第4章 自然選択
第5章 変異の法則
第6章 学説の難点
第7章 本能
第8章 雑種
付録 種の起原にかんする意見の進歩の歴史的概要
下巻の目次:
第9章 地質学的記録の不完全について
第10章 生物の地質学的遷移について
第11章 地理的分布
第12章 地理的分布(続)
第13章 生物の相互類縁。形態学。発生学。痕跡器官。
第14章 要約と結論
付録 自然選択説にむけられた種々の異論
まずわかることはオルグ目的で書いてることですね。科学にこんな言い方はどうかと思うんですが、創造論の支配に抵抗するための手練手管がなかなかすごい。ちょいとストーリー仕立てになっています。
第1章「飼育栽培のもとでの変異」は、足の速い馬をかけあわせてもっと足の速い馬を生むみたいな人為的な変異をあつかう。第2章「自然のもとでの変異」で、人為的に行わなくても、自然がゆっくり変異をさせていくのだ、と語る。変異を生む理由は、第3章「生存闘争」とか第4章「自然選択」がある。それらからわかることに変異には第5章「変異の法則」があるらしいんだけど、うまく説明できない第6章「学説の難点」もたくさん残る……みたいな。
進化論は革命的ではあるものの、付録の「種の起原にかんする意見の進歩の歴史的概要」を読むと、いままでにいろいろな人が同じようなことを言っていたようです。それほどとっぴな、おかしな考え方ではないことも、くり返し強調されます。なかなか創造論を打ち破るのは大変だったようです。
ダーウィンは、英文のくせに断定的な書き方をぜんぜんしないし、文章が回りくどくてうだうだ長いし、小難しい用語を使いすぎです。ヴィクトリア朝時代とはいえ、サイゾーみたいな雑誌でライター修行をしてから書けばよかったのに、と思いました(冗談ですよ、念のため)。
***
『種の起原』を読んで頭がやられたのか、変な寝言を言っていたそうです。同居人がネットをしていたとき、横で寝ていたはずのわたしが、いきなりはっきりした口調で、
「健闘の後は種が残りやすい」
と言ったとのこと。まったくおぼえてません。たぶん、生存に有利な条件を獲得した(健闘の後?)種は残りやすい、という意味だと思います。
ほかにも、どうのこうのと寝言を言ったようですが、きっとダーウィンが憑依したせいなので、文句があるならダーウィンに直接言ってほしいです。
長谷川眞理子『クジャクの雄はなぜ美しい? 増補改訂版』を読む
長谷川眞理子『クジャクの雄はなぜ美しい? 増補改訂版』を読みました。「雌による選り好み」を中心に性淘汰を考えていく本です。たいへんおもしろかった。
かた苦しいことばを使わない、わかりやすく論理的な文章で、楽しい豆知識を盛りこみつつ、性淘汰の大きな地図を広げてくれます。仏教学の『バウッダ』と同じように、これ以上ないってぐらいの完璧な入門書。ぐいぐい惹きこまれて、深夜のジョナサンでドリンクバーのお代わりもしないまま一気に読んでしまいました。
もくじ
序章 派手な雄と目立たない雌
第1章 性差はなぜあるのか?
第2章 同性間の競争と異性による選り好み
第3章 賢い選り好み
第4章 「美的センス」による選り好み
第5章 選り好みの進化
第6章 選り好みをめぐる疑問
第7章 雌雄の対立と葛藤
第8章 性淘汰の理論をめぐる論争
カブトムシの角は、オスどうしがメスを奪い合う「雄間競争」のために使われる。立派な角をもったカブトムシは、ほかのオスを木から落としやすく、繁殖する。そしてそのこどもにも立派な角が遺伝される。
ライオンのたてがみは、魅力をアピールしてメスに選んでもらう「雌による選り好み選り好み」のために使われる。立派なたてがみをもったライオンは、ほかのオスよりメスに選ばれやすく、繁殖する。そしてそのこどもにも立派なたてがみが遺伝する。
これがくり返されるうちに、カブトムシの角とライオンのたてがみはどんどん立派になっていった。「雄間競争」と「雌による選り好み」の性淘汰が、オスとメスの外見をわけた理由だった。
じゃあ、そもそもなんで性淘汰は起こるのか?
どんな動物でも、精子は小さくて数が多く、卵は大きくて数が少ない。オスは、小さくて数が多い精子をばらまくために、たくさん交尾しようとするから、メスを奪い合って争う。メスは、大きくて数が少ない卵をつくるのにエネルギーが要るため、たくさん交尾ができないから、よりよいオスを選ぼうとする。
ここまではテレビで動物の番組を見てる人ならおなじみの内容ですね。
メスの選り好みもいろいろです。自分のからだの大きさと同じくらいのオスを好んだり、ごちそうを運んでくれるオスを好んだり、立派な家をつくってくれるオスを好むような選り好みはわかりやすい。でも、クジャクの飾り羽のような美的センスの選り好みは、繁殖に関係してるようには思えないし、利益があるようには考えられないため、よくわかりません。
そこで、あれこれ仮説が立てられます。まずは「優良遺伝子説」からふたつ。
ハンディキャップ・モデル:派手な装飾は、ジャマになって食べものが取りにくく、捕食者に見つかって食べられやすい。オスはハンディキャップをものともしないことで、生存力と環境への適応度をアピールする。
しかし、尾の長いツバメは、飛びづらいためかエサは小さい虫しか取れず、羽は傷ついて折れやすくなります。これでは、とても生存力や適応度が高いとは言えません。
パラサイト・モデル:派手な装飾は、体調がいいときれいになることから、寄生虫(パラサイト)への抵抗力が高いことを示すアピールになる。食べものから摂取するカロチノイドは、免疫力を高め、装飾の色素になる。
しかし、グッピーの装飾であるオレンジ色のスポットは、免疫力どころか、逆に有害な遺伝子で死にやすくなることがわかってきました。
そこで、ハンディキャップ・モデルとパラサイト・モデルのふたつの仮説を、『系統樹思考の世界』でいうところのアブダクション、データによって検証していき、「よりよい説明を与える」新しい仮説が立てられます。
感覚便乗モデル:繁殖とは無関係な生きていくために発達した感覚を求愛のために使った。メスが視力や聴力などの「感覚」を発達させると、オスはそれに「便乗」して、飾り羽や複雑な鳴き声を使って気を惹こうとした。
生きていくために発達した感覚から、派手な装飾やディスプレイが生まれた、とする仮説です。トゥンガラガエル、ソードフィッシュ、ジュウシマツなどの近縁・共通祖先の研究から明らかになってきました。
ジュウシマツは複雑な歌で選り好みをするんですが、その祖先のコシジロキンパラも複雑な歌を好んだそうです。コシジロキンパラはもともと単純なさえずりしかしないので、声を録音して複雑な歌に加工して、メスに聴かせたらしいですよ。おもしろい実験を考えるものです。
ランナウェイ・プロセス:メスの「派手な装飾を好む」選り好み遺伝子と、オスの「派手な装飾」の遺伝子が対になって、相乗効果でどんどん装飾が派手になっていく。生存上の負担になったところで装飾の強調はストップする。
著者はランナウェイ・プロセスのたとえとして、ビクトリア朝時代のコルセットを上げています。男性がウエストの細さで選り好みして、女性は第12肋骨が変形するほどコルセットで胴を締めつけた。わたしは中国の纏足を思い浮かべました。これはジェンダーの話ではなく、みんながある形質を好むから、その形質をもたないと不利になり、生存に悪影響が出るまで形質が誇張されていく、というたとえですね。人文科学や社会科学ではなく、あくまで自然科学のお話です。
ランナウェイ・プロセスという仮説を考えると、説明できることが増えます。
ハシリヒキガエルは声の大きさで選り好みしますが、遠くにいる声の大きいオスより、近くにいる声の小さい(でも大きく聞こえる)オスを選びます。メスが大きい声のオスを探してあちこち歩き回ると、カモメやカササギなどの捕食者に食べられやすくなってしまうことから、コストが最小になるような淘汰がはたらき、選り好みがあまり進化しなかった。
ランナウェイ・プロセスに「選り好みのコスト」と「突然変異」を加えることで、ランナウェイ・モデルは数学としても成り立つようになります。ここらへんの仮説がくつがえされて新たな仮説が出てくるあたりは、読んでいてわくわくしました。科学者たちの熱いドラマをつい妄想しながら読んでしまいます。
以上が第5章までの内容です。実はつづく第6章と第7章で、さらなるどんでん返しが待ってるんですよ。これはぜひ本書で読んでください。
以下、大ざっぱに書いておきます。
第6章は「選り好みをめぐる疑問」として、自然と生物の多様性をあらためて見直していきます。選り好みの個体差または個性、オスが「出産」するタツノオトシゴ、メスどうしの「雌間競争」、メスの派手な装飾、一夫一妻の鳥のDNA分析であきらかになった「不倫」すなわち「つがい外交尾」とその理由など。
第7章は「雌雄の対立と葛藤」として、性淘汰の考えを大きく変えた、オスとメスの根源的な利害の対立と、自然の摂理や利益を超えた非効率かつ非適応的な行動を考えていきます。昆虫のいのちがけの交尾、ほかのオスの精子をシャベル状の性器で掻き出したり、毒殺してしまう精子間競争、そしてその有害物質を解毒するメスの攻防、ほかのオスと交尾したがるメスを囲いこむための配偶者防衛、雌雄の進化的軍拡競争など。
第8章でダーウィンとウォレスの論争からふり返り、本書をまとめて終わります。
いやあ、おもしろかった。
ぬるいジェンダー論を戦わせたり、男性蔑視をいやがって女性蔑視したり、女性蔑視をいやがって男性蔑視をするような人をよく見かけます。男性蔑視をするフェミニストぶったある女性に、わたしはひどいいやがらせをされたことがあります。
この本をBOOKOFF店員のようにヤスリがけして、出てきた粉を煎じて、そんな人たちに飲ませたい。そう思いました。
三中信宏『系統樹思考の世界』を読む
三中信宏『系統樹思考の世界』を読みました。理系・文系の壁を超えた共通言語としての系統樹思考のあれこれを書いた本です。おもしろかった。
このところ読んでいる進化学の本をまとめるつもりで読んだんですが、それ以外の『内科医からみた動物たち』、『幽霊を捕まえようとした科学者たち』、『捏造された聖書』ともつながってしまう射程の広い内容におどろきました。これはすごいなあ。読むのにだいぶ時間がかかりましたよ。やや射程を広げすぎたせいでまとまりが悪く感じますが、こんなのはぜいたくな批判でしょうね。
グローバルな科学にはいくつかの基準があります。
1.観察可能であること
2.実験可能であること
3.反復可能であること
4.予測可能であること
5.一般化可能であること
しかし、たとえば進化学は、観察も実験も反復もできません。人類の二足歩行の理由を調べたくてもアウストラロピテクスからやり直そうってわけにはいかない。そこで、こういうローカルな科学に合った科学哲学が考えられます。「演繹」とも「帰納」ともちがう「アブダクション」です。
アブダクションはかんたんに言うと、最良の説明を発見する推論方法(チャールズ・S・パーク)。
理論の「真偽」を問うのではなく、観察データのもとでどの理論が「より良い説明」を与えてくれるのかを相互比較する――アブダクション、すなわちデータによる対立理論の相対的ランキングは、幅広い領域(歴史科学も含まれる)における理論選択の経験的基準として用いることができそうです。
アン・ギボンズ『最初のヒト』の「イースト・サイド・ストーリー」という仮説とそれをくつがえす発見、あるいは分子時計がらみの話などは、まさにアブダクションですね。『捏造された聖書』のオリジナルテキスト復元のためにいくつかの写本グループにわけてくらべて調べることもアブダクションに入るでしょう。『考古学の教室』や『「古代史」謎解きのヒント』のように与えられたわずかな遺物をもとに過去を推測しあい、それをくらべあうこともアブダクションです。
アブダクションは、思考実験であり、物語的説明であり、トークン(集合のなかの個別をあつかうもの)なので、やや説得力に欠けます。しかし天文学や進化学から明らかなように、仮説をデータで検証する体系があって、「より良い説明」を磨き上げていけるならば、アブダクションからでも普遍法則を研究することはできると語ります。
さらに、言語・写本・民族・文化・遺物など、それぞれで時間的にも空間的にも超えた共通点が比較法(系統樹)によって明らかになれば、いずれは言語の樹や写本の樹や民族の樹をひとつにまとめた「生命の樹」(the Tree of Life)をかたちづくることも夢物語ではなくなる。そう著者は語ります。いよいよ話が大きくなってきました。
けっこう盛りだくさんですが、ここまでが前半の内容です。後半からは系統樹の歴史、あれこれの作法、その利点などがトリヴィアルなネタといっしょにこってり書かれています。それは本書でお読みください。
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以下、気になったところを拾っていきます。
早田文蔵さんに関しては、著者は誤解をしているかもしれません。早田さんは森羅万象のかたちづくる網状ネットワークを踏まえた動的な自然分類を目指した。その理論のヒントを華厳経の教義から得たそうです。
ある科学理論のひらめきを与えるのは、必ずしもデータであるとは限らず、場合によっては偶然の賜物だったり、時として宗教的啓示だったりします。早田の場合も天台宗の教義が「科学する心の支え」になっていたのかもしれません。
早田さんが論文にくり返し天台宗(とくに華厳経)の教理に言及したことから、よほど心に刻み込まれた宗教的体験があったのかもしれないと著者は考えています。しかし、そもそも華厳経の教えが動的かつネットワーク的です。異質なものが集まっていて、あちこちにつながりながら、全体として調和がとれている、そういう「ホロニック・ネットワーク」が華厳のキモでしょう。
早田さんにはもしかしたら宗教的体験があったのかもしれませんが、華厳理論を知るだけでも充分にヒントを得られたはずです。天台宗の教義は「科学する心の支え」どころか、科学よりずっと先を行った理論があったわけですから。もちろん宗教的な直観とイメージで世界を捉えたものですが。
それに、華厳理論を応用した早田文蔵さんよりとんでもない巨人が日本宗教界にいます。空海は華厳理論を応用して『秘密曼荼羅十住心論』を書き上げ、日本に渡来した数多くの仏教の宗派をならべて、くらべて、つなげた系統樹思考の達人でしょう。もっと評価されてしかるべき、というか、この本に書かれてないのがふしぎなくらいだと思います。
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分類主義者や本質主義者との対立があったことがほのめかされてますが、もっと突っこんで書いてほしかった。どろどろした科学者たちの論争があったはずです。きっと、この本がことさら系統樹の大切さを説く背景には、いままで軽んじられてきた歴史があるんじゃないかと思います。
それに「種(species)はない」と「新しい形而上学」の話は、かなりぐっときたんですが、ほとんど説明されません。人はそもそも認知的に分類したがる分類主義者で、それに加えて、なんらかの本質があると思いこんでしまう本質主義者である、というのがキーなんでしょうけど、いまいちピンときません。もっと詳しく書いたものが読みたい。
系統樹をつくるときの最短距離とかアルゴリズムとか離散数学とNP完全問題のあたりは、もっとへヴィーな数学をあつかわなければいけないはずですが、ここも説明があっさりしすぎです。新書だから仕方ないかもしれませんが、これで理解&実践できる人は、よっぽどの才人じゃないかと……。
まあ、深みにはまりたいなら参考文献を読め、ってことかもしれません。
あとがきのスペシャル・サンクスで、執筆に利用した喫茶店がずらずらならべてあるのは笑いました。こんなのはじめて読みましたよ。









