太田直子『字幕屋は銀幕の片隅で日本語が変だと叫ぶ』を読みました。さばさばした性格の字幕屋さんがおかしな日本語をつついたり仕事のあれこれを愚痴ったりという内容。おもしろかった。
わたしはクレジットをよく見ないせいで字幕屋のことを知らないのですが、太田直子さんは勝手に「ソクーロフの人」と憶えてました。なんとなく、お堅いイメージ。ところがこの本を読んで、リズム感のいい愉快な文体にいい意味で裏切られました。
テクニックを凝らした軽い文体なので、著者とおしゃべりするような感じですいすい読めますが、深いところまで届く内容のうえに、昭和天皇や禁止用語のタブーなどにもきわどく触れています。最初の勝手なイメージは裏切られましたが、期待は裏切られませんでした。
一秒四文字の制限でことばを切り詰める作業をやってみよう、という字幕テストがおもしろかった。たとえば、むっつり黙りこむ女に、男が問いかける場面:
男「どうしたんだ」
女「あなたが私を落ち込ませてるのよ」
男「僕が君に何かしたか」
このみっつのセリフをすべて五文字以内に切り詰めるには、どうすればいいのか? ポイントはふたつ目の15文字で、この内容をひとつ目に盛りこむことまでは想像できるものの、そこから先は悩みどころ。けっこう頭の体操になります。著者がじっさいどんな字幕にしたのかは、本書でごらんください。
字幕屋ならではのおかしな日本語つつきも楽しい。下のような発言はチャレンジブルです。まったくそのとおりだなあ、なんて思いつつも。
広報などで、かたくなに「障がい者」と表記する自治体や組織もある。「害」の字はネガティブな意味合いを持つからだと言う。だったら「障」の字もそうではないのか。
ほんらい映画は映像で伝えるものだから観客に「わからせる」ためのナレーションを多用するな(字幕屋の仕事が増えるじゃないか!)という指摘は、珍しい方向からの援護射撃みたいに感じましたね。つくる側もわかっちゃいるけど商売のことを考えると仕方ないなーなんて、字幕屋と同じようにうんざりしていると思います。
「泣ける」映画が流行っているせいで配給会社の人に無理やり「泣ける」創作字幕を書かされるあたりも笑いながら読みました。こういう作品名をすぐに特定できそうな愚痴は読んでいて心配になりますが、愚痴ってもOKなキャラと実力が認められているんだろうと勝手に思いました。本業の字幕はもちろん、太田直子さんのもっと単著が読みたいです。
